2020年8月、私たちARCCは「理想のデータマーケティングを探究する」メディアとしてスタートし、多種多様なトッププレイヤーにお話を伺ってきました。
そのどれもが素晴らしく貴重な話でしたが、「もっと詳しいお話を直接聞きたい」と考え、ARCC編集長・吉本が自らトッププレイヤーに会いにいくことにしました。今回は、その連載の第三回目。お話を伺ったのは、株式会社ビタブリッドジャパンの執行役員 西守 穣さんです。
事業の立ち上げから携わり、自らBI※を構築して日々データと向き合う中で見つけたという、データの可能性と難しさ、そしてそれを扱う人に求められるものについてお話を聞くことができました。
※BI:Business Intelligenceの略。企業が収集したデータを分析することで、経営の意思決定・マーケティング活動などに活用することを総じて表現した語句。西守様はBIツールのダッシュボードを独自に作り、データ分析の環境を整えた。
「30日、90日、120日」で見る短期のLTV
吉本:最初にビタブリッドジャパン様について、そして立ち上げ当初の西守様の役割と最近のお仕事についてお聞きしたいです。
西守 様(以下、敬称略):ビタブリッドジャパンの事業は単品リピート通販です。昨今ではD2Cという言葉をよく聞きますが、お客様に一つの商品を長く使っていただくことを追求していきたいので、あえて「単品リピート通販」と言っています。
扱うのは韓国の技術提供を元に開発されたビタブリッドCという商品で、最近ではラインナップに美白の化粧品、育毛剤や機能性表示食品などもあります。
もともと4人で始まった会社で、代表の大塚が新しいお客様を増やす業務を担当し、それ以外のフルフィルメント・CS(カスタマーサポート)・システムなどを私が担当するという役割分担でやってきました。最近では新商品のブランドマネージャーとして商品開発にも取り組み、「売るところ」まで一気通貫で成果を挙げたいと考えています。
吉本:ありがとうございます。さっそくBIに関するお話を伺いたいのですが、はじめに、西守さんはなぜBIツールを活用したマーケティング環境の構築が必要だと感じたのでしょうか?
西守:2017年当時、アフィリエイト経由の売上が結構伸びてきました。しかし、アフィリエイトは他の獲得経路より初回解約率が高いと考えていたのですが、そのデータを確認することができずにいました。
獲得経路別のLTVや継続率が見れない状況では、広告費用のポートフォリオを考えることすらできないと感じたのが最初のきっかけです。たとえ儲かっているとしても、どんぶり勘定では課題に気づけないのです。
吉本:それから独自のBI構築へと動き始めたのですか?
西守:実は最初から独自のBI構築を考えていたわけではなく、当時は既存のSaaS系のBIツールの導入を検討していました。しかし見積もりが高く、しかも初期カスタマイズと導入後のカスタマイズがかなり必要となることが判明しました。
これなら自社で構築するほうが圧倒的に安いし、便利で将来性があると判断し、BI構築へと動き始めた経緯があります。
吉本:ありがとうございます。今回のインタビューにあたって、西守さんから最新のダッシュボードを見せていただきました。解説をお願いしてもよろしいでしょうか。
西守:私たちはパッと見て分かりやすい、視覚重視でPowerBIを活用しています。理由としては経営陣のようなプロフェッショナルではなく、販促を担当する人たちが活用できるものでないと、実際には使ってくれないという考えがあったからです。
吉本:こちらのダッシュボードにある「N(エヌ)日LTV、N(エヌ)日残存率」という指標はあまり聞き慣れないワードですが、西守さんが考えられた分析手法なんですか?
西守:はい、おそらく弊社独自の考え方ですね。私たちは「30日、90日、120日」という短期のLTVを重視しています。まず「30日」ですが、こちらは最初の広告の良し悪しを判断するために使っています。この30日の時点で最初の継続率が見れるため、こちらは新規獲得担当を中心に活用しています。
次に「90日」と「120日」ですが、この2つは最初は続けてくれたお客様がその後も続けてくれるかどうかの分かれ道になっています。こちらはお客様に継続してもらうために動いているCRM担当が活用しています。
吉本:それぞれで活用している担当者が違うのですね。もう少し深く聞いてみたいのですが、この「90日」と「120日」の違いはどこにあるのでしょうか?
西守:これはアップセルのタイミングによる違いです。3ヶ月分をまとめた定期コースにアップセルする場合、3ヶ月後、つまり90日後に継続の判断をしていただくことになります。初回購入時にアップセルすると「90日」後ですが、初回購入から30日後の2回目の購入時にアップセルすると、次の周期は「120日」後になるという違いです。
「90日」と「120日」は、最初に継続してくださったお客様が、その後も続けてくださるかの分かれ道。「120日」まで続くと、そのまま1年続ける人が増えてくるのです。なので月一回くらい、短期LTVを健康診断的に見て定点観測しています。ちなみに最適な「N」は商材特性や単価、商品のまとめ方によって異なります。
CPAとLTV・量と質のどちらを重視するのか?
吉本:データ活用を考える上で、パーツとして弊社のアドエビスが必要だったとお聞きしました。その理由を教えていただきたいです。
西守:元々、新規顧客を増やす広告をはじめとする施策はアドエビスを使うことで、横断的に状況を確認することができる状態でした。それに加えて、当初からアドエビスにはAPI連携機能が用意されており、その環境をそのまま自社の受注データに連携できたため、BI構築はアドエビスありきで考えました。
吉本:確かにアドエビスのお客様の中でも、アドエビスの計測データと1stPartyデータ(自社データ)や、外部データ(3rdParty)を統合しBIで描画して、レポート環境設備に投資をする企業様が増えてきました。また、広告ごとのLTVを見たいといったニーズもより顕著に増えてきています。
LTV(=質)とCPA(=量・獲得効率)に関して、西守さんはどのようなバランスでマーケティングしていくべきだとお考えでしょうか?
西守:LTVの重要性は変わらないのですが、最近はCPA重視の考え方に戻っているように感じています。やはりLTVの改善幅は限定的で、CPAの方が改善の可能性は高いです。
それに、そもそもCPAで目標に達していない状況で、LTVをどう改善しようとしても利益に繋がりません。今はどの企業もLTVが多少悪化してでも、新規の顧客数を増やす方に注力していると考えています。
吉本:おっしゃる通りですね。ここのバランス感覚ってとても難しいですよね。
西守:たくさんのお客様を取るのか、長く続けてくれるお客様と出会うのかのバランスですね。長く続けてくれるお客様を育てることもできますが、そのためには一定のお客様の数がいないと始まらないという点には注意が必要です。
なぜなら質を改善するにも、量が少ないと改善の影響が少なすぎるからです。量と質はバランスの問題ですが、ある段階までの量が存在しないと質の議論は始まらないと思っています。
それに、仮に継続するお客様が10万人いて毎月1万人はやめるとなると、毎月1万件は新規を取らないとならない。この規模まで大きくなると、新規を諦めて既存のお客様のLTVを伸ばそうとすると、どうしても売り上げは落ちてしまい、事業規模の維持すら難しくなってしまうのです。
吉本:最大化すべきは利益額であって、それを最大化する為の手段として”量と質”のバランス議論が生まれるわけですね。事業フェーズによっても、ここの観点は大きく左右されそうですね。
1つ1つのデータを判断する人間のリテラシーを上げることが重要
吉本:最後にお聞きしたいのですが、西守さんは過去のご経験から、データマーケティングのどこに難しさを感じていますか?
西守:結局、データをBIダッシュボードで可視化したとしても、そこで表示された意味を読み解くのは人間の仕事であるという点に難しさを感じています。具体的に言うと同じデータを見たとしても、そこから致命的な問題や新しいチャンスに気がつける人と、残念ながら全く気がつけない人が現れてしまうということです。
吉本:マーケターが扱うデータ量は年々増加していますし、データは発生する場所も広域化していると思います。だからこそ、必要になるデータの見極めが難しい。「データで解決したい課題はなにか?」という可視化の目的と、課題解決に必要なデータの見極めができないと、大量データを収集・可視化するだけで終わってしまっている企業が多いんじゃないですかね。
西守:そうですね。私たちのような通販業界においてはデータの量ではなく、1つ1つのデータを判断する側の人間のリテラシーを上げることが重要であると思っています。そのリテラシーがあるかないかで、データから分析して得た発見を次に活かせるかどうかが決まってしまうのです。
そのリテラシーを育成するためには、とにかく沢山のデータを扱って、分析して、自分で試す必要があります。そして、リテラシーが高い人が社内にいて、その人に気軽に相談できるという環境が、社内でリテラシーを高めるために一番大事なことなのです。
吉本:確かに。人を育てるにしても、会社の文化が大事になってくるということですね。最後に、今後チャレンジしたいことを教えていただけますか?
西守:今度は自分でブランドを立ち上げ、自らが販促活動を行い、BIダッシュボードを使い倒します。そして自分がロールモデルになることで、社内のレベルの底上げを図ったり、成功体験をみんなに共有したいなと思っています。そのためには、成功してみせなければなりませんので、自分に高いハードルを課してる感じです。まさにチャレンジです。
吉本:大事なお仕事ですね。私たちもデータとの向き合い方、リテラシーについて考えさせられることが多くありました。本日は貴重なお話をありがとうございました。
※<参考記事>
「化粧品ECの新鋭。売上60億円超、成長率200%の背景にアドエビス×Power BI~LTVレポートで、社内リテラシーをアップ~」
プロフィール
株式会社ビタブリッドジャパン 執行役員
西守 穣(にしもり ゆたか)
中央大学卒。カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社、株式会社hontoを経て、総合PR会社の株式会社ベクトルへ。株式会社ベクトルで担当していた新規事業である、ビタブリッドジャパンの創設メンバーとして化粧品通販ビジネスの立ち上げに尽力し、創業7年で年商100億円まで到達。
株式会社イルグルム 執行役員 CSO(ARCC編集長)
吉本 啓顕(よしもと ひろあき)
2009年、株式会社イルグルムに新卒入社。主力製品のエンジニア、プロジェクトマネージャー、営業を経て、マーケティング部の立ち上げ責任者に就任。アドエビスのデジタル戦略を統括し、事業の成長に貢献。現在はアドエビス事業の統括として、製品企画とマーケティング部門を牽引。2019年10月、執行役員に就任。
アドエビス主催の"国内屈指のトップマーケターたちが見据える、ECの未来"を
テーマとしたイベント「NEXT STAGE of EC」。
そこで西守さんに登壇いただいた際のアーカイブ動画を無料配布しております。
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