後編も同様、前編に引き続き「ブランディングの科学」から学ぶマーケティングのTIPSをお伝えします。
前編では、本書のスタンスの紹介や顧客の記憶構造をどのようにして作るかといったことについて、ヒントとなるTIPSを3つほどお伝えしました。
後編ではもうすこし具体的に、主に広告について見ていきましょう。マーケティングにおいて広告は欠かせない施策の一つですが、どの目的とは一体なんでしょうか?まずはその点を見ていきます。
ブランド広告の目的とは?
ブランド広告の目的は何かとマーケターに聞いたら、このような答えが返ってくるかもしれません。
「ブランドと顧客の接点をつくるためのもの。」
「ブランドの存在を多くの人に知ってもらうためのもの。」
「ひいてはブランドの売上を上げるために必要。」
確かに広告にはここに挙げたような目的はあるように思えます。ただことブランド広告においては、異なる視点で事象を捉えた方が良さそうです。
本書の視点を参考にしてみましょう。
広告の目的はマーケットシェアを維持することにある。マーケットシェアの拡大または上昇傾向を加速させるために十分な広告を投資し、優れた広告を制作している企業は少ない。多くの企業が、広告を実施しなければ生じる非常に緩やかな売り上げの低下を防ぐために広告を実施している。(P.192)
実はこの文章の前段として、ブランド広告が「売上を上げる」という目的遂行のためには、そこまで成果を上げていないことをデータをもって示しています。
事業が継続するためには利益を出し続ける必要がありますが、ブランド広告は直接的には利益を生み出さない・・・では広告が無意味なのでしょうか?
どうやらそれは違うようです。著者が定める広告の目的は、「マーケットシェアを維持すること」。
ブランドは常に競争にさらされていて、広告を使わなければ緩やかな売上の低下が生じます。ブランド広告はその売上低下を防ぎ、長期間にわたって売上増を実現するといった主張なのです。
広告がもつ重要な役割とは?
では広告の目的が「マーケットシェアを維持すること」であれば、広告の役割についてはどう考えれば良いのでしょうか?
この問いは、先ほど詳しくお伝えできなかった「長期間にわたって売上増を実現する」の理由についても、答えることができそうです。著者は広告の効果についてこう述べています。
多くの場合、広告は記憶構造を刷新することで機能している。必要に応じて記憶構造を構築し、嗜好や購入意向を創出することもある。広告は独創的なメッセージを発信してブランドセイリエンスを維持/構築している。(P.205)
この箇所を読むと、どうやら著者はブランド広告の役割を「記憶構造の構築と刷新」だと主張しているように思えます。
つまりブランド広告の役割は、顧客とブランドとの一つのタッチポイントとして機能して、クリエイティブの内容によって顧客の記憶に訴えかけ、記憶構造を構築したり場合によっては刷新することだと言うのです。
先ほどブランド広告の効果について、「長期間にわたって」売上増を実現すると伝えましたが、この「」内は、顧客の記憶構造を構築/刷新するという点から理解ができそうです。
なぜならブランド広告が人々の記憶に入り込み、イメージを定着させるまでにはある程度の時間がかかるからです。
以前、ブランディングとは信頼感の醸成だとお伝えしました。
「醸成」という言葉には「時間をかけて育んでいく」といったニュアンスを込めましたが、ブランド広告の役割はすぐに売上を上げることではなく、顧客の「記憶構造の構築と刷新」を行い、長期間にわたって成果を上げていくということです。
顧客がブランドを選ぶ理由
ここまで「ブランディングの科学」を参考に、広告の目的と役割について考えてきましたが、最後に顧客がブランドを選ぶ理由について考えてみましょう。
ここに興味深い考察があります。
評価を行って購入に至るブランドの数はごく限られている。それは、その存在に気づき再想起できたブランドであり、1つに絞られることも珍しくはない。従って、肯定的な特徴と印象を持たなければ消費者に選択してもらえない。(中略)別の言い方をすると、多くの人にとって買いやすいブランドほどよく売れるとも言える。(P.281)
経験の浅いマーケターはブランドが選ばれる理由について、機能面が優れているからだと思いがちです。
しかし顧客は自ら評価してブランドを選んでいないケースが多く、理由を聞いてもわからなかったり明確ではなかったり、あるいは「友達が薦めているから」という単純な理由だったりします。
マーケターは頭から煙が出るほどブランドの見せ方や伝え方を考えますが、実際は「買いやすい」ブランドが選ばれていたりするのです。(決して考えることを否定しているわけではありません。)
ここでマーケターが考えるべきことは、顧客が「買わない理由」をいかにして無くせるかといった点にあります。
人は何かを選択する時に、選択することで生じる”痛み”を想像します。それは「買って損をする」だったり、「買っても使わない」だったり様々ですが、マーケターは考えうる理由を先回りして想像して、あらかじめ無くしていく努力が必要です。
さて、まとめに入ります。
「ブランディングの科学」を参考にすると、マーケターの仕事は2つに集約できそうです。
- 顧客の記憶構造を構築/刷新して、ブランドへの信頼感を醸成していくこと。
- 信頼感を醸成しつつ「買わない理由」を無くしていくこと。
こう考えると、今まで私たちが考えていたマーケター像とはすこし違った絵が見えてきませんか?
・・・今回は6つのTIPSにとどめましたが、ためになる話がたくさんあります。ぜひ興味をもった方は手にとって読んでみてください!
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