2020年8月、私たちARCCは「理想のデータマーケティングを探究する」メディアとしてスタートし、多種多様なトッププレイヤーにお話を伺ってきました。
そのどれもが素晴らしく貴重な話でしたが、「もっと詳しいお話を直接聞きたい」と考え、ARCC編集長・吉本が自らトッププレイヤーに会いにいくことにしました。
今回は、その連載の第4回目。お話を伺ったのは、株式会社ホットリンクの執行役員CMO 飯髙悠太(いいたか ゆうた)さんです。今回はSNSの本質に迫る貴重なお話を聞くことができました。
「コンテンツ×SNSの掛け算」という考え方
吉本:はじめまして、イルグルムの吉本です。イルグルムは「データとテクノロジーによって、世界中の企業によるマーケティング活動を支援し、売り手と買い手の幸せをつくる企業になる」というビジョンを掲げ、広告効果測定プラットフォーム「アドエビス」を提供しています。
アドエビスのTwitterアカウントはありますが、現状あまりうまくいっていません。リソースが限られた中で、どんなKPI・KGIを設定すればよいのか。まずはその辺りの設計面について質問したいです。
いいたか 様(以下、敬称略):そもそもの話しちゃうと、B to B事業でSNSを伸ばすのは、けっこう厳しいですよ。
吉本:な、なるほど。
いいたか:自社で使っているツールは、どちらかというと言いたくないですよね?
「アドエビス、めちゃくちゃいい」ってリアルな場での紹介はあっても、それがSNS上でコミュニケーションになりづらい。もちろん商材によりますが、SNSの口コミは増えづらいです。おそらく誰かに直接メッセージを送るとか、どちらかというとダークソーシャル※にいきます。見えない世界なのでコントロールはできない。だから、むずかしいです。
吉本:言われてみると確かに、そうですね。
いいたか:僕らもそうです。「ホットリンク最高!」だなんて、誰も言いません。
でも、方法はあります。たとえば今回のARCCの取材はSNSの外で起こっていることですよね。SNSには内と外がありますが、外でコンテンツを作り、それが面白ければSNSを通じてコンテンツのビューが伸びます。直接「アドエビスいいね」といった声が広がるわけではありませんが、結果的に「アドエビスいいね」につながればいいのです。
だから僕らもオウンドメディアをやっているし、取材がきたら基本的に断らないっていうスタンスです。
吉本:SNSだけで伸ばそうと考えても、うまくいかないということですね。
いいたか:そうです。ここで大事なのは、「コンテンツ×SNSの掛け算」という考え方。SNS内で公式アカウントが自社サービスについてツイートしても広がりませんが、コンテンツを介すことで、多くの人に見られる可能性がありますし、内容の質も厚みも違います。
ただ一方で、B to B企業がSNSに力を入れるのには違和感もあります。もちろん、やったほうがいいのですが、SNSを活用したからと言ってイコール売上が上がるかというとそうではない。商材によりますが、SNSのフォロワーが増えたからといって問い合わせが増えるわけではないのです。
SNSをやらなくても問い合わせが来続ける企業が理想じゃないですか。それは究極ですが、そこに至るまでに何かを作っていこうとした時に、はたしてSNSをどう位置付けるか、そもそも必要なのかはよく考えるべきだと思います。
※ダークソーシャル:SNSのDM(ダイレクトメッセージ)や、Slackなどのチャットツールなど、外部から見たりデータの取得ができなかったりするSNSのこと。
SNSで知りたいのは“信頼できる情報”
吉本:お話を聞いていて浮かんだ疑問ですが、いいたかさんはSNSというものを、どう捉えているのですか?多くの企業がうまくいかない現状も、いいたかさんと同じ思考をもてば打開できると思うのです。その思考の本質的なところを知りたいです。
いいたか:そうですね。まず、もともと人の情報源は人です。インターネットが誕生する前は井戸端会議で、何かを知りたければ信頼できる詳しい人に聞いていました。それからインターネット上に掲示板が誕生して、実名だけでなく匿名の情報を閲覧できるようになって、あらゆるレビューサイトが登場して、いろんな情報に出会えるようになりました。
でも、情報は多くなりすぎました。どの情報を信頼すればいいのか、ユーザーはわからなくなったのです。ここにスマートフォンとSNSが登場して原点に立ち返った。それは信頼できる人の情報を知りたいという原点です。
だからSNSで人は基本的に信頼できる人、好きな人のことをフォローします。みんな信頼できる情報を知りたいからです。
吉本:耳が痛い話でもありますが、SNSを集客チャネルとしか捉えてない企業は多いですよね。
いいたか:企業のエゴですね。ぜんぜんユーザーファーストじゃない。たとえばクリエイティブひとつとっても、かっこつけた良い写真を撮ってユーザーを置いてけぼりにしてしまうことはよくあります。ハイブランドでない限り、企業はお客さんが真似しやすい写真を考えながらアップした方がいいはずです。
リツイートもそうです。写真のクオリティーが高い投稿だけ拾うのではなく、商品の本当の良さが伝わるようないい投稿であれば拾ってあげたほうが絶対いい。自分都合で独りよがりな企業はまだまだ多いと思います。
繰り返しますが、SNSで人々は自分が信頼できる人や好きな人をフォローします。でも企業がSNSを集客チャネルとしてしか捉えていないと、結局はコンバージョンを増やすためにどうすればいいか、といった会話にしかならないじゃないですか。そのような人とのあいだに、信頼は生まれませんよね。
毎回300人以上が集まる「#ダークソーシャル倶楽部」
吉本:SNSを理解する上で、「信頼」がとても重要なキーワードだと理解しました。話はすこし戻るのですが、いいたかさんがご自身で「コンテンツ×SNSの掛け算」を企画する時は、どのようなことを考えているのですか?
いいたか:僕らが重要視しているのは“深み”です。
どうしたら良い人が集まって、その人たちが良い口コミをしてくれるのか。たとえば2020年7月に、会員制Bar「#ダークソーシャル倶楽部 」という配信イベントを始めました。知り合いのバーを借りてゲストを呼び、お酒を酌み交わしながらビジネスのことについて語り合うオンラインイベントです。
YouTubeやTwitterでライブ配信する番組ですが、これを1時間半の番組にしました。
ふつうは1時間半もオンラインイベントを観るのは億劫(おっくう)ですよね。でも、ながら視聴していてもすごくいいことを言っていたら手は止まります。
映像にもこだわって、カメラ4台でテレビ並の配信番組を作りました。さらにスポンサーもついていただいて、休憩中にCMも流す。これだけ濃度の高い企画をしたら、企画自体に深みが生まれ、そこに反応してくれる良い人が集まり、良い口コミが生まれます。
結果、「#ダークソーシャル倶楽部」は毎回300人以上もの人たちに視聴していただきました。これとは別に「#NEWWORLD2020」というオンラインイベントも企画したのですが、同様に“深み”を重要視して開催した結果、合計4,500人が集まり、6,500件以上ものUGCが生まれるイベントとなりました。
ここまですると、一般的には「ホットリンク=SNSマーケティングの会社」だと思われていても、知っている人には「すごい企画を考えられる会社なんだ!」と思ってもらえます。企画に深みが出れば、それが結果的に信頼につながる。そんなことを念頭に企画を考えています。
吉本:本日は貴重な話をありがとうございました。最後に、いいたかさんの今後の展望をお聞きしてもいいですか?
いいたか:SNS広告関連事業は2025年に1兆円産業になると言われています。もちろんプレイヤーはたくさんいますが、いがみ合うのではなく、互いに手を取り合って業界を良くしていきたいと心から思っています。
ホットリンクのビジョンは、「ソーシャルメディアマーケティングにスタンダードを創る」。お客様の成功を大事に、これからも良い事例を増やしつづければ世の中がよくなっていくと信じています。
プロフィール
株式会社ホットリンク 執行役員 CMO
飯髙 悠太(いいたか ゆうた)
広告代理店やスタートアップ企業で複数のWebサービス・メディアの立ち上げ、100社以上のコンサルティングを経験。2014年4月、「ferret」の立ち上げに伴い株式会社ベーシックに入社後、「ferret」創刊編集長、執行役員を務め、2018年12月末に退職。2019年1月より現職となる。2019年より株式会社ホットリンクで執行役員CMO(マーケティング責任者)を務め、支援企業のSNSコンサルティングを実施。
株式会社イルグルム 執行役員 CSO(ARCC編集長)
吉本 啓顕(よしもと ひろあき)
2009年、株式会社イルグルムに新卒入社。主力製品のエンジニア、プロジェクトマネージャー、営業を経て、マーケティング部の立ち上げ責任者に就任。アドエビスのデジタル戦略を統括し、事業の成長に貢献。現在はアドエビス事業の統括として、製品企画とマーケティング部門を牽引。2019年10月、執行役員に就任。
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