「人と機械の協業」が意味するところ。データサイエンスの研究者が語る“人がやるべきこと”の真意とは?

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私たちARCCが「理想のデータマーケティングを探究する」メディアとしてスタートしたのは、2020年8月。これまでに多種多様なトッププレイヤーにお話を伺ってきました。

そのどれもが素晴らしく貴重な話でしたが、もうすぐ1周年を迎えるこのタイミングで、もっと詳しいお話を直接聞きたい。そう考えた私たちはARCC編集長・吉本が自ら、会いたい人に会いにいく新連載を始めました。

第一回の対談では株式会社フラクタの代表取締役 河野 貴伸さんに、D2Cブランドのブランディングについて教えていただきました。

そして第二回目となる今回、株式会社AGプラスの代表取締役社長であり、多摩大学に経営情報学部専任講師として勤めながら、データサイエンティストとしても活躍する崎濱栄治さんにお話を伺いました。データサイエンスの研究や実践を通じて、崎濱さんは人の行く末をどう考えていらっしゃるのでしょうか。

イノベーションを起こすための「データサイエンスの在り方」

吉本:崎濱さんはビジネスだけではなく、アカデミックな視点からもデータサイエンスの探究をされていますよね。最初にまず、ご自身が取り組んでいる研究について教えていただけますか。

崎濱 様(以下、敬称略):私が興味を持って取り組んでいるのは、データサイエンスの応用研究です。具体的には機械学習などの技術を十分に活用できていない分野に対して、様々な手法でデータサイエンスを適用して、新しい発見ができないかを模索しています。

吉本:「データサイエンス」という言葉は聞いたことがあっても、それが何かよく分かっていない人もいるかと思います。ここで改めてデータサイエンスとは何なのかを教えてください。

崎濱 栄治 様
株式会社AGプラス 崎濱(さきはま) 栄治 様

崎濱:ビジネスの分野に限定すると、「ビジネス課題をデータに基づいて解決すること」がデータサイエンスだと私は思っています。

例えば美味しい料理を作る時、普通は慣れ親しんだ調理道具を使おうとします。しかし世界には切れ味の鋭い包丁や真新しいまな板が存在して、日々それを磨いている人がいるんです。だから、それをまだ使ったことがない人に「使ってみませんか?」と提案する。データサイエンスの応用研究を料理に例えると、そんなことが言えます。

私はデータサイエンスの新しい研究結果を元に、いろんな分野でビジネス課題の解決を提案しているのです。

吉本:企業がこれまで使ったことがないものを取り入れるというのは、どういうイメージになりますか?

崎濱:入山章栄 先生という早稲田のビジネススクールの大人気教授が『世界の経営学者はいま何を考えているのか』という著書で、すごく分かりやすくまとめてくれています。企業がイノベーションを起こすためには、既存の研究や事業を進めていくだけではなく、一見関係の無いように感じる新しいことをやる必要があるというお話です。

イノベーション理論:「両利きの経営」

これは「両利きの経営」と呼ばれていて、例えば右手が「知の深化」で既存事業を伸ばすということだったら、左手で「知の探索」として新規事業も進めていかないといけない。シュンペーターによるところイノベーションの本質は、「知」と「知」の新結合です。両軸で等しく進めることがイノベーションに近づく道だということです。

吉本:確かにイノベーションを生み出すには、今までの技術や提供サービスを磨く「知の深化」と、新しいものを発想する「知の探索」の両軸が大切ですね。

崎濱:企業が新しいことをやるには、今やっているものとできるだけ遠いものを探して定量化する必要があります。私はその定量化のために、自然言語処理の技術で「トピックモデル」と呼ばれるものを使っています。

例えば、今こうして話している内容を全て書き起こしたとしましょう。そこから会話の中で出ているトピックの割合を出していきます。例えば「AI」が60%、「マーケティング」が40%といったイメージですね。

吉本:抽出した単語から話題を分析していくのですね。

崎濱:はい。それぞれの文章に対してどの単語がどれくらい含まれていたのか、またはよく出てくる単語はどのようなものかを出すことができます。

私が経営学の分野で興味を持っているのは、この技術を企業のPRニュースや社員インタビューに活用したらどうなるのかという点です。会社からのメッセージである文章からトピックを抽出すると、会社ごとのカラーや組織文化の特徴を表すことができるのではと思っています。

吉本:会社のカラーや組織文化がデータサイエンスで表現できるとなると、HRテックの分野でも活用の可能性がありますね。

崎濱:その通りです。求人票に載らない組織文化などの情報を提供できるようになったら、人と人、人と組織のマッチングへのヒントになる可能性があると思います。

他にも研究を進めているのが、ESG投資についてです。金融の分野で重要な流れになっているESG投資に対して、伝統的なファイナンスの手法に加えて、人工知能や経済学の分野で活用されている研究成果を活用できるのではないかと構想を練っています。

※ESG投資とは、環境・社会・ガバナンスの3つの観点を含めた投資活動のこと。

人でしかできない発想を支えるための「人と機械の協業」

吉本:私たちイルグルムは「アドエビス」というプロダクトを通じて、広告の効果測定を行っていますが、いわば人でなくてもできるデータ管理や単純計算といった仕事を、それが得意な機械に任せられるようにしているといった側面もあります。

吉本 啓顕 氏
株式会社イルグルム 執行役員 CMO(ARCC編集長) 吉本 啓顕(ひろあき)

よく巷で「人と機械の協業」といった言葉を聞きますが、この言葉に対して崎濱さんはどのような考えをお持ちですか?

崎濱:この「人と機械の協業」という言葉には私も強く関心を持っています。この言葉が意味するところは、データサイエンスなどの手法を使ったとしても、それを人がきちんと解釈することで初めて一歩前に進むということだと考えています。

オードリー・タン大先生が著書の中で「AIのような機械は人をサポートするための道具だよ」とおっしゃっていて、すごく納得感がありました。機械の方が得意な仕事は機械にやらせた方が良い。人はクリエイティビティを発揮することにフォーカスするべきだと考えています。

吉本:そうですね。「ビッグデータ」といった言葉もあるように、取れるデータの量は膨大になっている。ではそれをどう扱ったら良いのかという点が、人に委ねられている部分になります。

崎濱:私が尊敬する広告運用のプロフェッショナルの方が仰っていた、「人でしか斜め上の発想はできない」という言葉が記憶に残っています。

彼はGoogleの配信アルゴリズムに精通しているのですが、配信アルゴリズムに人が勝つのはたぶん無理だと言います。しかし、配信アルゴリズムはあくまでも過去のデータをその根拠にしています。

それに対して人は過去のデータからでは思いつかない全然違った発想で、新しい動きを取り入れることができる。私は、これこそ人がやるべきことではないかと考えています。

吉本:先ほどの話で言う「知の深化」は機械が得意だけど、「知の探索」は人も能動的にやっていかなくてはならないということですね。

※オードリー・タンは中華民国(台湾)の政治家、プログラマー。「天才デジタル担当大臣」と呼ばれ、「台湾のコンピューター界における偉大な10人の中の1人」とも言われている。

データサイエンティストに必要な3つのスキル

吉本:崎濱さんは、データサイエンティストに必要なスキルをどうお考えですか?

崎濱:日本データサイエンティスト協会の定義が参考になります。

1つ目はデータサイエンス力です。これは統計・機械学習などの手法を正しく使えるかどうかになります。2つ目がビジネス力。現場との連携が取れるかどうかなど、そのビジネスモデルをちゃんと理解しているのかというのがビジネス力になります。
3つ目がデータエンジニア力。必要なデータを間違いなく集めることができるのかが問われる力。これら3つの中で、足りないスキルは得意な人に頼んで補完しながらチームのように取り組むことが大切です。

データサイエンティストに求められる3つのスキル

吉本:3つのスキルを協力して補い合うイメージですね。データはあらゆる角度から様々なものを集めることができますが、その中で課題を特定し、解決していくために必要なものを選ぶところに難しさがあると感じてしまいます。

崎濱 栄治 様

崎濱:そこがまさに人のクリエイティビティが発揮されるべきところです。

吉本:そうですね。どのデータとどのデータを掛け合わせれば課題を解決できるのかを考えてみる。そういう思考こそ人が必要とされる領域ですね。

実はアドエビスが集めているビッグデータで、実際にマーケターの意思決定に活用いただいているデータは数%にも満たないと思います。例えると、来店者の情報を全て集約できているのに、「この人は買ってくれた、買ってくれなかった」というレジの情報しか見られていない感覚です。

でも今のマーケティングの課題をもっと違う角度、違う情報から見てみるとどうなるのか。マーケターの意思決定には、もっと様々な角度からデータを活用してほしいと願っていますし、私たちもその期待に応えていかなくてはならないと思っています。

崎濱:そうですね。例えばユーザー全体の動きや消費のトレンドみたいなところは、すぐに可視化できそうですね。例えばコロナ禍で消費行動がどう変わったかなど。

吉本:面白いですね、それ。

崎濱:2022年の3月に博士号を取る予定です。今後は、それを足がかりにして研究を発展させていきたい。私一人ではできないところもあるので、色々な方と協業してやっていきたいと思います。

吉本:素敵ですね。ぜひご一緒したいです。今後も機械には得意なところを任せていきながら、人がやるべきところをより支えていけるように私たちも成長を続けていきたいと思います。本日は貴重なお話ありがとうございました。

※<参考記事>
恐れることなく、データサイエンスと未来へ。多摩大学経営情報学部専任講師・崎濱栄治氏インタビュー(Less is More.by info Mart Corporation)


プロフィール
崎濱 栄治 様

株式会社AGプラス 代表取締役社長
崎濱 栄治(さきはま えいじ)

1997年横浜国立大学経営学部,2006年一橋大学大学院国際企業戦略研究科卒,2016年横浜国立大学大学院博士課程後期入学。経営修士(専門職)。三菱UFJ信託,SPSS,みずほ第一FT,Amundi Japan,イルグルム,F@N 等を経て2020年4月多摩大学着任。INFORMS,EMAC,AOM,日本マーケティング・サイエンス学会,人工知能学会,日本証券アナリスト協会等の各会員。JDLA Deep Learning for GENERAL

吉本 啓顕

株式会社イルグルム 執行役員 CMO(ARCC編集長)
吉本 啓顕(よしもと ひろあき)

2009年、株式会社イルグルムに新卒入社。主力製品のエンジニア、プロジェクトマネージャー、営業を経て、マーケティング部の立ち上げ責任者に就任。アドエビスのデジタル戦略を統括し、事業の成長に貢献。現在はアドエビス事業の統括として、製品企画とマーケティング部門を牽引。2019年10月、執行役員に就任。

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