RaaS(Retail as a Service)という言葉を聞いたことがありますか?
そのまま訳すと、「小売のサービス化」。この言葉はビジネスウェアのD2Cブランド、及びカスタムオーダーサービスを展開する「FABRIC TOKYO」の取締役COO兼CFO、三嶋憲一郎さんの著書に登場します。
『リテール・デジタルトランスフォーメーション』と題された同書では、まさに小売のDXが語られるわけですが、「FABRIC TOKYO」がRaaSという概念に行き着くまでの試行錯誤や変遷といった細部の話まで描かれていません。
今回は三嶋さんに過去を振り返っていただきつつ、アパレル業界だけに限らない、未来の小売へと思いを馳せていただきました。
FABRIC TOKYOの店舗が持つ2つの役割
創業当時から、代表の森は一貫して「未来のアパレルはパーソナライズ化していく」と語っていました。私もこの一点に賭けてきたといっても過言ではありません。
アパレル業界の問題を深掘っていくと、私の前職であるエネルギー事業と同じで、業界の既成概念にとらわれて変われずにいることが分かりました。
これをテクノロジーで解決してきたのが私たちのスタンスです。
私たちにとって店舗とは商品を売る場所ではありません。過去の経験から「売上」を最重視すると、何かしらのほころびが出ることは分かっていました。大事なのは、”お客様が商品を買って持ち帰った先でどうなって欲しいのか、どういう価値を提供したいのか”です。
FABRIC TOKYOは第一号店(ポップアップストア)を2015年・浜松町に出店。創業当初、オンライン完結型サービスとして運営していたものの「実際に採寸して欲しい」という声が多数あり、リアル店舗出店に至りました。
ポップアップも含めると今まで30店舗以上も出店している同社ですが、はじめは困惑することも多かったといいます。
当時は、お客様がどんな人たちなのかも分かっていませんでした。「実際に採寸して欲しい」というご要望に応えつつ、私たちもお客様のことをもっと知りたかったのでポップアップストアを出店しました。
印象的だったのは「これで安心してネットで買えます」というお客様の声です。お客様は採寸のプロではありません。店舗での採寸でご安心いただいた結果、リピート率も上がりました。
浜松町に続き、次は常設店舗を渋谷に出します。しかし、出店したのは人通りの多いエリアではなく、渋谷でも少し外れたエリア。ここで新しい発見がありました。
人通りが少ないにも関わらず、来店者数は当初から順調でした。つまりオンラインで店舗を知り来店されたということ。O2O(Online to Offline)の送客が機能していたんですね。
浜松町と比較すると、客単価が高いのも新しい発見でした。渋谷店の場合、オンライン上に店舗情報を載せていたので、お客様が来店前に商品情報をたくさん調べていたからだと思います。来店後のオンラインでのリピート率やLTVも上がる傾向にありました。
つまり店舗はO2Oの送客先としての役割と、顧客エンゲージメントを高めてLTVを高める役割。この2つを持っていることがわかったのです。このような気づきから自然と、「FABRIC TOKYO」のOMO(Online Merges with Offline)モデルが形作られていきました。
RaaSのデータはOne to Oneの価値提供のため
RaaS(小売のサービス化)について三嶋さんは著書で、「RaaS=D2C(EC×Brand)×SaaS」という式を紹介しつつ、“「売った後のサービス」まで視野に入れた販売戦略をとる”ことが重要だと述べています。
例えばAppleはiPhoneというプロダクトを売って終わりにしません。クラウドストレージのiCloudやApple Musicのようなサブスクリプションサービスを提供することで、「売った後のサービス」も展開しています。
D2Cブランドとしても、OMOモデルの雄としても注目を集める「FABRIC TOKYO」は、お客様にビジネスウェアをお売りした後のサービスをどのように考えているのでしょうか。
私たちが取り扱うアパレル商材は、デジタル機器のようにソフトウェアサービスを載せることはできません。
その代わり「FABRIC TOKYO 100(ハンドレッド)」のように、体型の変化によるサイズお直し、スラックス破損時の保証、オーダー品のサイズフィット保証を月額制のサブスクリプションで提供するサービスを展開しています。
この取り組みで私たちが重要視するのは、お客様の身体のサイズデータと暗黙的な趣味のサイズデータです。前者がデータとして分かれば、自分にあった商品をオンラインでずっと買い続けていただくことができますよね。
さらにお客様には個人の好みのサイズ感が存在して、人によっては少しダボついて着たい方もいらっしゃるでしょうし、タイトめが好きな方もいらっしゃるはず。これが後者のデータです。
前者はやがてテクノロジーに置き換えられると思うのですが、後者は商品をパーソナライズ化するうえで貴重なデータとなります。
RaaSという壮大な絵を描きながら、あくまで三嶋さんは「顧客の体験価値」が大事だと言います。
私たちは結局のところ、RaaSのデータは一人ひとりの顧客にOne to Oneの体験価値を届けるためにあると思っています。さまざまな身体のサイズや個人の好みを持つお客様に合わせて、One to Oneの商品を届けたい。そのためにデータは存在しているという考えです。
「Fit Your Life」を表現していきたい
OMOモデルを成熟させ、RaaSという次なる展開を見据えるFABRIC TOKYO。同社は社会に対して何を実現していきたいのでしょうか。最後に三嶋さんに語っていただきました。
ただただ、私たちが掲げるビジョンとブランドコンセプトを突き詰めていきたいという一点のみです。
FABRIC TOKYOの服を着た人が奥さんに褒められたとか、打ち合わせで着ていったら商談がうまくまとまったとか、朝に会社まで歩く時間が気持ちよかったとか。ものすごく情緒的な世界ですが、このような「Fit Your Life」の世界観を社会に向けて表現していきたいです。
より個人的なビジョンとしては、RaaSをアパレルだけに限らず横に拡大し、小売業界に新しい顧客体験を作っていきたい。現在は自社商品のみ扱っていますが、他社ブランドも含めOMOで顧客にパーソナライズさせるようにしたいです。
さらには、まだまだ固定観念に縛られている小売業界に私たちのRaaSを当て込み、OMOを前提とした商業施設も作れたらなと頭に描いています。「店舗を出す」ことのハードルを下げ、まるで広告やメディアを作るイメージで店舗を構えるビジネスモデルを浸透させていきたいですね。
最後には自社ブランドやアパレル業界に収まらない大きなビジョンを語ってくださった三嶋さん。FABRIC TOKYOが日本の小売業界を大きく変える日は、そう遠くないかもしれません。
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