新しい顧客を増やしたところで、継続的に利用してくれないとビジネスは成り立ちません。
耳が痛い話かもしれませんが、実際のところそうです。
マーケティング予算をいくらかけて、どれくらいの顧客が増えたか・・・このような思考だけでは、現代において顧客に好かれるブランドを作ることは難しいでしょう。
もちろん、絶対的な正解はありません。
しかし、各企業のブランディングに関する努力やストーリーを知れば、少しは「ブランディングとは?」といった禅問答のような質問に、自分なりに解が出るかもしれません。
・・・ということで、今回はブランディングについて改めて考えてみましょう。
オネストティー・Apple・ブリュードッグという3つの会社のブランディングから、考え方やその意味、方法など、ヒントを探っていきます。
ブランディングとは何か?
私たちマーケターは「マーケティング」の次か、あるいは同じくらい「ブランディング」についても考えていませんか?
それくらい、今や2つの言葉は切っても切れない関係にありますが・・・改めてブランディングとはいったいなんでしょうか?
ブランドという言葉は、以前このようにお伝えしました。
ブランドはもともと家畜に焼印を押す行為を指しました。今でも英語のbrandは、商標・銘柄といった意味以外に、「焼印」といった意味を持ちます。
現代において、機能性や価格といったものだけで、人々を魅了するのは難しいものがあります。私たちは、商品やサービスだけではなく、その提供元であるブランドも一緒に見ます。そういった意味では、ブランドという言葉の語源に「焼印」といった意味があるのは頷けますね。
・・・一方で、ブランディングについては、このようにお伝えしました。
ブランドの起源でお話した通り、もともとの意味は異なりますが、現代の「ブランド」には良いイメージがありますよね。人によっては高級感を抱いたり、希少性を感じたりすることでしょう。
ブランディングとは、そのような「人々が企業・商品に抱く良いイメージを醸成すること」と説明できます。あえて醸成という言葉を使ったのは、「ローマは一日にしてならず」というように、ブランディングも短い時間ではできないからです。
ここでは、ブランディングを「人々が企業・商品に抱く良いイメージを醸成すること」としました。
ローマが一日にしてならないように、ブランディングも一朝一夕では終わりません。
企業としては、多額のプロモーション予算をかけて早く顧客に良い印象を与えたいところです。しかし、世界に名だたるブランドが行ってきたブランディングは、気が遠くなるほど丁寧でかつ細かやかに、顧客との関係構築に時間をかけています。
参考:「ブランディングの意味|Appleにとってブランディングとは何だったのか?」
3社にとってのブランディングとは?
抽象的な話ばかりしていても、ブランディングの真髄には迫れません。
今回は、ブランディングとは何かを知るヒントを探るべく、とある3社のブランディングについてまとめてみました。
1. オネストティーにとってのブランディングとは?
まずはオネストティーという紅茶ブランドのブランディングについて見ていきたいのですが・・・聞き慣れない方も多いですよね?
オネストティーは、1997年にアメリカで創業した紅茶のブランドです。甘味料を加えた紅茶が多い中、本当に良い茶葉を素材の味を活かして正直に(オネスト)作るブランドです。(創業のストーリーは本にもなっています。)
「夢はボトルの中に――「世界一正直な紅茶」のスタートアップ物語」
セス・ゴールドマン (著), バリー・ネイルバフ (著), 関 美和 (翻訳)
オネストティーの創業当時、市場はスナップルを始めとする一般的な紅茶のシェアがほとんどで、オネストティーは美味しいものの、「甘くない=味がしない?」といった印象を持たれてしまうこともしばしばありました。
彼らは、その正直さゆえに多くの苦労をしますが、それでも一貫した姿勢で市場シェアを少しずつ伸ばしていきます。
最初は2人の小さな会社です。(しかも1人はフルタイムではない)ブランディングにかける予算などなかったはずです。
しかし、オネストティーはパッケージやロゴという最低限な領域でデザインとメッセージ性にこだわりぬき、人々に良い印象を少しずつ与えていきます。
ブランディングというと、目抜き通りの巨大広告や雑誌の見開き1ページを思い浮かべる方もいるかもしれません。
しかし、このような小さな領域にかける真摯なアプローチもまた、立派なブランディングだと言えるのではないでしょうか?
2. Appleにとってのブランディングとは?
つづいて、Appleのブランディングについて見ていきましょう。
最近でもスタイリッシュなCMが話題を呼びますが、Appleのセンセーショナルなブランディングは昔から話題の的でした。
「クレイジーな人たちがいる」で始まるこの動画は、Appleが1997年に展開した「Think Different.」というCMです。
周りから疎まれ、変わり者だと言われ、クレイジーだと言われた人々は、それでも世界を変えてきた。自分が世界を変えることができると信じていたからだ。・・・といったメッセージがスティーブ・ジョブズ氏の言葉で語られます。
最後まで見ても、一向に製品は出てきません。
そう。そこにはApple製品の説明など一欠片もないのです。
Appleがこの動画で人々に届けたのは、Apple製品ではなくAppleの哲学です。
Appleは製品を売ろうとするのではなく、Appleの哲学を伝えることで顧客に対してブランディングしようとしました。
・・・Appleのように先鋭的な製品の場合、パッと製品を見せただけでは顧客のニーズを喚起できません。このような課題がある中では、哲学を伝えたAppleのようなブランディングは有効かもしれませんね。
3. ブリュードッグにとってのブランディングとは?
最後は、クラフトビールの会社として有名なブリュードッグのブランディングを見ていきましょう。
創業者のジェームズ・ワット氏はかなり強烈なキャラクターですが、著書「ビジネス・フォー・パンクス」は示唆に富んだ内容で読み応えがあります。
「ビジネス・フォー・パンクス」ジェームズ・ワット (著), 楠木 建(解説)
その著書には、ブランディングについてこのようなことが書かれています。
ブランド構築で一番大事なポイントは、企業は自分のブランドに影響を及ぼすことはできても、自分の物のように好き勝手に扱うことは決してできないという点だ。
Appleのケースと異なり、この本が世に出た2016年はソーシャルメディア全盛期です。企業と顧客はもはや別の世界に存在するわけではなく、TwitterやInstagramで挨拶すれば時に返事が返ってくるくらい身近にいます。
この言葉の背景には、いくら企業努力でブランディングに力を入れても、結局ブランドとは人々の頭の中にある感情的な反応だよ、という考えがあります。
これは決してネガティブな話ではなく、ジェームズ・ワット氏はこう続けます。
21世紀においては、ぶれないこと、魅力的であること、オープンであること、誠実であること、統一感を示すことができてようやく、ブランド構築の第一歩を踏み出せる。
企業、というかブリュードッグの場合はジェームズ・ワット氏という個人が、創業時からブランディングの先頭に立ってきました。
その仕掛けの多くが賛否ともに多くの話題を呼び、結果的にブリュードッグが世界に知れ渡るきっかけとなりました。
その彼らのブランディングの根底にあるのは、「ぶれないこと」「魅力的であること」「オープンであること」「誠実であること」「統一感」といったことが挙げられていますが、これらは先述した「ブランドは、自分の物のように好き勝手に扱えない」につながります。
現代におけるブランディングは、顧客との距離が近い分、矛盾していたり中途半端にクローズドだったりすると、その点にすぐに気づかれてしまい顧客の心が離れてしまう・・・そんな風にも読み解けますね。
ブランディングに終わりはない
ここまで3社のブランディングを見ましたが、ブランディングは時代とともに最適な方法が変わります。
時代とともに変化していく顧客のニーズを察知しながら、ブランドに求められるものを敏感に感じ取り、顧客価値を追求し続けていかなくてはならないのです。
そういった意味では、ブランディングに終わりはないのかもしれません。
・・・最後になりますが、ブランディングの課題の一つとして、効果測定が容易ではないといった点があります。
ただ良さそう、悪そうといった感覚的な話ではなく、定量的な指標を用いて測定することで初めてブランディングに意味が生まれます。
ブランディングの効果測定について、またその指標について、詳しく知りたい方はこちらのホワイトペーパーがオススメですので、ぜひ参考にしてみてください!
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