『調べ方の教科書』1万3,000部越え。著者が語るリサーチにおける“良い仮説”とは?

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株式会社 電通に入社後、ストラテジック・プランニング局に配属され、戦略プランナーとして、活躍してきた阿佐見 綾香(あさみ あやか)さん。現在もマーケティング部門で、企業の商品やサービスを売るための戦略をプランニングしています。

また同時に「GIRL’S GOOD LAB(旧・電通ギャルラボ)」という、女性のインサイトと消費トレンドの研究を行うチームにも在籍。「LOVEのカタチが変わると消費が変わる」という持論を掲げ、変わり続ける世の中と向き合う日々です。

そんな阿佐見さんの著書『調べ方の教科書』※1は、2021年9月に発売され、今では1万3,000部※2を越える大ヒットを記録。今回は多岐にわたるノウハウの中から、リサーチにおける”良い仮説とは?”に焦点を当ててお話を伺いました。

まずは前段として、何も考えずすぐにリサーチを始めてしまう、「とりあえず調査」が大きな落とし穴であるという話を紐解いていきましょう。

※1:『電通現役戦略プランナーの ヒットをつくる「調べ方」の教科書 あなたの商品がもっと売れるマーケティングリサーチ術』(PHP研究所)
※2:2022年2月時点

「とりあえず調査」が、なぜダメなのか?

私は新入社員の頃、クライアントの話を聞いた直後に「とりあえず、すぐに調べる」という動き方をしていました。

しかし、山のように資料を集めたのは良いものの、企画に落とし込む方法が分かりません。

なぜなら、クライアントにとって本当に価値がある情報を抽出できていないからです。「価値がある情報」が多くの「価値のない情報」に混ざっている状態では、全てが価値のないものに見えてしまいます。

「とりあえず調査」では、価値がある情報の抽出ができないのです。

阿佐見 綾香 様
株式会社 電通 阿佐見(あさみ) 綾香(あやか)

当時は、そんな私を見かねた先輩が仕事を引き受け、一瞬にして企画に落とし込むといったことがよくありました。しかし、先輩の仕事のやり方を見ていても、何が起こっているのかを把握できず、一方で先輩もそれを言語化して伝えることはできていない状態でした。

それでも10年ほど失敗を繰り返しながら様々な仕事を経験していくと、私自身も”調べ方”の全体像が大まかに把握できるようになりました。ただこれでは次に伝えていくことができません。

そこで、とあるプロジェクトで、あえて“調べ方”を言語化しながら進めてみようと思いたちました。

書籍『電通現役戦略プランナーの ヒットをつくる「調べ方」の教科書 あなたの商品がもっと売れるマーケティングリサーチ術』

この時のアウトプットを元に社内向けの研修を作り、それが社外での研修へと広がったことで、最終的に『調べ方の教科書』の出版につながったのです。

“良い仮説”と、その仮説の立て方について

「とりあえず調査」では価値がある情報を抽出できないとお伝えしましたが、そうなる理由は、仮説が無いからです。

私が6年目の頃、トヨタ自動車株式会社様からGIRL’S GOOD LABへ、女性向けに新規でオリジナルの「カー用品」のブランドを作りたいという、ブランドの立ち上げと商品開発の相談をいただきました。

チームで議論した結果、すぐに出てきたのは「女性受けしそうな可愛いデザインが良いのでは?」という意見。もちろん当時のトレンドを体現するような「可愛いデザイン」を追求して商品開発を進めることもできたのですが、それは全員が思いついたアイデアでもあり、“ありきたりな商品”になってしまいそうだと考えました。そこで、チーム内でさらに様々な意見を出し合いました。

すると、チームの中で「カー用品におけるユニクロのような存在」つまり、「シンプルでベーシックなカー用品」というアイデアが出てきました。「女性向けの商品なのに、シンプルでベーシック」というところにちょっとした引っ掛かりというか、“違和感”のようなものがあったので、このアイデアには本質的に受け入れられるものを作れそうな可能性を感じました。

さらに議論を深めながら市場を調べてみると、カー用品のジャンルにおいては他に同じようなものは無さそうで、意外とここに未充足のニーズがあるかもしれないと考えました。

そこで「女性がカー用品に本質的に求めるものは、“可愛い”ではないのではないか?」という仮説が生まれたのです。その仮説を元にインタビューなどの調査を進めていくと、ターゲットとする女性層から意外な意見を聞くことができました。

それは、女性がカー用品に求めているのは「自分の世界観を邪魔しないこと」という声。つまり自分が思う「可愛い」は個別にあって、車の中にはすでに思い思いの「可愛い」世界観を作っているので、その中に置いてもちぐはぐにならずに心地よく存在してくれるカー用品のほうが良いということです。

求められていたのは、まさに「シンプルでベーシックなカー用品」だったのです。そして生まれたのが、TOYOTAの女性向けカー用品ブランドの「myCoCo」(現在は車を購入したときのオプション商品として販売)でした(myCoCoの話は書籍のP.375に掲載)。

女性たち1人ひとりが大切にしているどんな世界観とも組み合わせられる、シンプルかつベーシックなデザインで、女性の車の中での動線を徹底的に考え抜いた、車の中をここちよくするカー用品。TOYOTA「myCoCo」のキービジュアル

この事例のように、仮説を持ってリサーチを繰り返すことで、はじめて価値がある情報をより分けることができ、自分たちだけでは気づけない顧客のインサイトに辿り着くことができます。

阿佐見 綾香 様

やはりヒット作品は、「このインサイトを突いてくるのか!」といった驚きを持っていますが、インサイトは言語化できないものなので検索しても出てきません。他社がそれを見つける前に自分たちでそれを引き出すためにも、叩き台となる“仮説”を持ってリサーチすることが重要なのです。

“良い仮説”と、仮説の立て方(4段階)

私が考える“良い仮説”とは、検証可能な仮説のことです。検証できない仮説は、もう少し絞り込んだり、より明確にしたりする必要があります。たとえば遠い未来にしか検証できない仮説は、不確実性が高すぎるので良い仮説とは言えません。

何かの原因にフォーカスし、検証が可能なレベルまで細かくすることで、良い仮説を立てることができると考えています。

ここで私が実践している仮説の立て方を4段階でご紹介します。

阿佐見さんが実践する仮設の立て方(4段階)

3で重要なのは、それぞれのメンバーが感じた違和感をしっかりと口に出しつつ、一般論や個人の主観はなるべく外すことです。ここで仮説をブラッシュアップしていきます。ただ、この時の仮説は、立派なものである必要はありません。

ここでの狙いは、お客様から何らかの反応をいただくこと。その声を参考にして、より良い仮説を練ることができればよいのです。

これが良い仮説を立てるための4段階ですが、もし検証可能な仮説が複数ある場合、そこには優先順位を付ける必要があります。その時も、できるだけチームの多様な視点から最適解を探すほうが良いでしょう。

本当に良いものを、必要としている人に届ける

この仕事を続けてきて、本当に良いものを、必要としている人へ届けることの力になりたいという気持ちが強くなっています。

阿佐見 綾香 様

もし広告をする商品に問題があるのなら、その商品をもっと良くしていく。その商品を作っている側に問題があるのなら、そこをもっと良くしていく。それを繰り返した先で本当に良いものができたら、それを求めている人に絶対に届くようにしたいのです。

そして同じような志を持ち、それを実現できる人を増やしていきたいと思っています。今回の本やクライアントさんへの研修など、みんなの視点が高くなれば、より良いものがちゃんと届けられるようになります。そんな豊かで楽しい世の中になれば素敵だなと、心から思っています。

本稿は「良い仮説の立て方」にフォーカスしておりますので、
阿佐見さんから「仮説テンプレート」をARCC読者向けにプレゼントしていただきました!
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