私たちの周辺環境は、常に変化しています。例えば、スマートフォンが登場し、情報の伝達速度・量は飛躍的に増加しましたし、すべてのものがインターネットにつながる時代はすぐそこまで来ています。
最近では、人工知能(AI)が我々の仕事や日常の作業を、すべて代わりにやってくれるのではないかとさえ言われています。
こうして日々刻々と環境が変化していく中では、顧客の考えや、価値観は多様化し、タッチポイントは増加・複雑化する一方です。
今の時代にマッチした顧客との繋がり方が常に求められている現状において、マーケターは一体どのようなマーケティング手法をとっていけばよいのでしょうか。
今回は”選ばれるブランドになる”という目標設定のもと、顧客起点のマーケティングの実践論、方法論が書かれている書籍「The Customer Journey(ザ・カスタマージャーニー)」の一部を紹介しながら、企業やマーケターが目指すべき顧客との関係性について5つのヒントを見ていきましょう。
カスタマージャーニーが必要になった背景
同書のタイトルにも採用されている「カスタマージャーニー」という単語。単純に和訳すれば、、“顧客の旅”ということになりますが、これは顧客が商品やサービス、ブランドを体験する道筋を旅(ジャーニー)に例えた言葉です。
では、どうしてこのカスタマージャーニーという考え方が必要になってきたのでしょうか?
「The Customer Journey」では、その理由について、以下の3つを重点的に説明しています。
1. スマート化
冒頭でもご紹介した通り、我々の周辺環境は常に変化していますが、その最たる例が、スマートフォンやIoTであるといえるでしょう。
私たちは、スマートフォンをまるで自身の体の一部であるかのように操作し、本来のコミュニケーションツールとしての役割以外に、地図として、あるいはブラウジングツールとしてなど、他にも様々な用途で利用するようになっています。
個人の行動のすべてが、もはや小さな端末上に集約されていると言っても、過言ではないわけです。
さらには今後、周囲にある家具や家電をはじめとしたすべてのものが、インターネットにつながる、IoT(Internet of things)時代を迎えようとしています。
身の回りにあるモノがすべてインターネットにつながるようになれば、さらに情報伝達の速度や量は加速していくでしょう。
こうして、私たちの身の回りで、インターネット経由で情報や人がいつでもつながる世界「コネクティッドワールド」が浸透していくわけです。「The Customer Journey」の中では、コネクティッドワールドをどのように理解すればよいのか、そのヒントが記載されています。
たとえば、『何がこれからインターネットとつながり、サービスとしてスマート化していくのかを体系的に把握』したり、『この技術の進化が起きている背景構造が一体どのようなものかを理解』したり、『消費者が感じる価値シフトの理解』こそがそれにあたります。
また、「The Customer Journey」は、読者がこうした考え方の理解を深めるため、実例を挙げて紹介してくれている点も、魅力的です。
配車サービス「Uber(ウーバー)」のビジネスモデルについて、利用者・乗客の視点以外に、ドライバーの立場として、同サービスがいかに魅力的か、そしてビジネスの視点から、どうしてこれほどまでに、サービスが急速に拡大したのかが記載されており、理解の深度化が進みます。
世の中でスマート化、コネクティッドワールドが実現する中で、顧客はSNSやインターネットに、いつでもどこでもアクセスすることができるようになりました。メディアや広告などとの接点・接触時間も確実に増え、そこから得る情報は増加の一途をたどっています。こうした中では、そうした顧客の動き(カスタマージャーニー)を適切に把握しないと、効率的にコンバージョンが得られないようになっています。
2. コモディティ化
さらに、現代は商品やサービス・情報などの「コモディティ化」が進んでいいることも、カスタマージャーニーが必要になった背景を考える上で非常に重要です。
しかし、どうしてコモディティ化は起きてしまうのでしょうか。「The Customer Journey」は、『企業間の市場をめぐる競争が、主な要因のひとつ』としているほか、『その競争を引き起こしているのは、同じ市場に参入している競合他社や、商品やサービスを代替できる別ジャンルの製品の登場も原因となる』と解説しています。
たとえ、登場時はユニークな製品であっても、市場が発達し、商品ライフサイクルの短命化が進む中で、次第に他の商品との差がなくなり、結果、同質化してしまいます。
コモディティ化が進む現代においては、顧客が一体どうして自社の製品を選択したのか(あるいは逆に選択しなかったのか)を、分析する必要があります。顧客が一体何を求めているのか、それを正確に把握する上で、各タッチポイントにおける顧客の分析(カスタマージャーニー分析)は欠かすことができません。
「The Customer Journey」は、コモディティ化を避けるために以下の3つの紹介しています。
安さで打ち勝とうとする方向性
徹底的に付加価値を訴求していく差異化の方向性
商品の特定の機能やジャンルに集中し、勝負する市場を絞り込む方法
どれを選ぶかは企業のマーケティング戦略次第ですが、コモディティ化を避けるためにカスタマージャーニーを熟考する必要が出てきたのは間違いなさそうです。
3.少子高齢化・人口減少
最後に、日本で進む少子高齢化と人口減少も、非常に重要なキーワードです。
少子高齢化や人口減少が起きると、一体どのような問題があるのでしょうか。
まず、1つに市場規模の縮小が考えられるでしょう。「The Customer Journey」では食品業界の例を挙げていますが、人口が減れば、間違いなく食品の需要が減ります。こうした状況において、食品業界は衰退していきますが、これはなにも食品業界に限った話ではありません。
内需が減れば、そこを相手にしている企業は衰退します。また、GDPが減ると、日本全体の購買力も低下するといえます。少子高齢化と人口減少が起きると、消費者行動に変化が起きる点も考慮に入れておくべきであると同書は述べています。『企業が提供する商品やサービスに価値を見出してくれる人が相対的に少なくなる』ため、企業はそのための準備が必要となります。
同書では、ローソンとトヨタ自動車の例を挙げて、具体的に解説していますが、たとえばローソンは、「マチのほっとステーション」から「マチの健康ステーション」へと変わろうとしている点について紹介されています。
少子高齢化・人口減少とは、つまり顧客の減少を指します。より1人1人の顧客との関係性を強めていかなければ、企業は生き残っていけない時代になっています。旧来型のマス広告を打っているだけでは、顧客との対話ができません。顧客との関係性を第一に考えて、対話する形で価値を提供していくカスタマージャーニーこそが、今必要なのです。
カスタマージャーニーを実現する組織
カスタマージャーニーが必要になった背景について、「The Customer Journey」の一部を紹介しながら解説してきましたが、これを実現するためにはどのような組織体系が必要なのでしょうか。
まず、同書では顧客接点が多様化・複雑化する現状においては、『ほかの企業にはない魅力的なブランド体験を作り出す上では、それらの接点を統合し、カスタマージャーニー全体を見ることができる人材、つまりは顧客視点に立って、自社のマーケティング活動を指揮できる人が必要』と指摘しています。
さらにここでも、ANAやローソンといった具体的な企業の組織変更を紹介しながら、変化する環境に対応した組織づくりが必要であると述べ、グローバル企業のマーケティング組織についても紹介されています。
『企業都合ではなく顧客視点に立った、魅力的なブランド体験づくりが重要』であり、『自社の組織や環境に合わせた理想を描き、実現に向けて少しずつでも動き始める』こと、そしてそれらを牽引するリーダーシップが、マーケターに求められています。
競争優位なカスタマージャーニーの作り方
さて、スマート化やコモディティ化、人口減少などが進む中で、マーケターはどのようにして競争優位なカスタマージャーニーを作っていけばよいのでしょうか。
現状、マーケターは様々な悩みを抱えています。どのようにして顧客視点を持てばよいのかわからないといったものや、顧客それぞれに対してジャーニーを描くことができるのかといったものがそれに当たりますが、「The Customer Journey」では、顧客に焦点を当てたカスタマージャーニーのマスターマップを完成させるプロセスが紹介されています。
同書によれば、カスタマージャーニーを作るには以下の4つのステップがあります。
現在の顧客接点を洗い出し、顧客の気持ちや行動を可視化したカスタマージャーニーマップを作成する。
競争の軸を見直すことを目的として『新しいカスタマージャーニーコンセプト』を考える。
新しく考えたコンセプトをもとに、カスタマージャーニーマップを描き直していく。
特に有効な顧客接点を、最新のマーケティングテクノロジーで強化する。
さて駆け足でしたが、今回はカスタマージャーニーが多様化・複雑化した背景を解説し、さらにそれらを実現する組織について考え、実際にカスタマージャーニーを作成するにはどうしたら良いかを本書から学びました。
「The Customer Journey(ザ・カスタマージャーニー)」
ちなみにカスタマージャーニーを作るだけでは終わらず、ジャーニー上の各マーケティング施策の効果を可視化して、効果測定から分析までをしっかりすることが大事です。
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