デジタルメディアやSNS、通販などの普及により、企業を取り巻く環境は日々変わり続けています。
売上を伸ばすためには、良い製品やサービスを作ることが最も重要であることに変わりありませんが、それらを顧客に認めてもらうためには、変化する消費者意識や行動を理解することも、また必要です。
そこで必要となるのが、カスタマージャーニーマップです。カスタマージャーニーマップとは、顧客(カスタマー)が商品やサービスを認知したり、購入したりする際の一連の動作を旅(ジャーニー)にみたて、それらを地図(マップ)に落としこむ作業のことを言います。
今回は、カスタマージャーニーマップを作る目的や、その作り方、導入事例などについて紹介していきます。
1. カスタマージャーニーマップを作る目的とは?
メーカーやWebサービス、飲食店、スポーツジムなど、世の中には様々な業種・業態・サービスがありますが、いまあなたが、どんな仕事に従事していたとしても、“儲ける”ためには、商品やサービスを、顧客に知ってもらったり、選んでもらったりする必要があります。
一昔前までは、美味しいコーヒーを入れれば、近隣の顧客が評判を聞きつけて来てくれましたし、良い腕の医師がいれば、街の評判の医院として、集客ができたものです。オフラインの時代、競争相手は限られていました。
しかし、現代は違います。オンラインで、世界はグローバルにつながり、スマートフォン1つで、欲しい商品の個人輸入だって可能です。美味しいレストランやカフェに行きたければ、Googleで検索すると、自分だけでは到底知ることのできなかったような店を発見することができます。
検索、予約、決済といったことが、小さなデバイス上でワンストップで行えるようになり、競争相手は、国内外に広がるようになりました。こうした環境下において、戦略なしに成功できる事業は限られています。
顧客がいかにして自社の製品やサービスを知るのか、そして競合他社と比較して、自社の製品やサービスはどのような面で優れている(劣っている)のか、顧客はどういった点を重視して購買にいたるのかといった、消費者行動や顧客体験を理解する必要があります。
顧客を理解し、自社のビジネスやマーケティングを知ってもらい、選んでもらうために、カスタマージャーニーマップは、不可欠な存在となっているのです。
2. カスタマージャーニーマップの作り方はたったの5ステップ
カスタマージャーニーマップは、企業が提供する商品やサービス、そしてブランドイメージなどによって、全く異なりますが、その作り方には、一定の法則があります。
本章では、カスタマージャーニーマップの作り方を、5ステップで紹介します。
2-1. ペルソナの設定
まずは、自社の製品やサービスに対して、潜在的な興味・関心を持つ顧客がどのような人物であるのか、つまりペルソナを設定する必要があります。
ここで、ペルソナの設定を細かくすればするほど、ニッチな製品やサービスになっていきますが、一方でユーザーの消費者行動がよりイメージしやすくなり、どういった戦略を取ればよいのか、具体的な策が立てやすくなります。
2-2. ペルソナの行動を明文化する
次に、ペルソナの行動を、具体的にイメージしながら明文化する作業が必要です。
例えば20代の男性に販売したい商品であれば、『インターネットに詳しく、比較的アクティブで、金銭的な余裕はまだそれほどあるわけではない可能性が高い』など、まずは行動を推察するための人物像を固めていきます。
次に、「認知」「興味・関心」「比較検討」「購入」「評価(口コミなど)」「継続購入」といった基本フェーズに分けて行動を明文化していきます。
この作業はあくまで想定なので、想像力を働かせながら行いましょう。
2-3. 顧客参加型の仮説検証
ここでペルソナの設定、およびその行動として想定した内容が正しいのかを、一度検証しておく必要があります。
検証方法は、顧客から直接意見を聞くことが望ましいのですが、それはハードルが高いようにも思えますよね。最近では、アンケートツールやクラウドソーシングが普及しているので、ペルソナに近い人物像を探して積極的に利用するのも良いでしょう。
顧客の声を聞くと、多くの場合、想定していた行動と異なる箇所が出てきます。このステップで実際の声を反映し、明文化したペルソナの行動を修正しましょう。
2-4. フレームワークを決定する
次に、カスタマージャーニーマップのフレームワークを決定する必要がありますが、ここではシンプルなフレームワークをオススメします。
横軸は、基本フェーズとして大別した「認知」「興味・関心」「比較検討」「購入」「評価(口コミなど)」「継続購入」を用い、縦軸に「思考」「感情」「行動」「タッチポイント」としましょう。
ちなみにタッチポイントとは、その行動を起こすにきっかけとなった部分です。例えば、Facebookのシェアやいいね!をきっかけに行動するユーザーは、Facebookがタッチポイントになります。
2-5. カスタマージャーニーマップ完成
ここまで来たら、あとはフレームワークに今まで決めてきた内容を入れ込んでいきます。
できれば作る過程はチームで共有した方が良いでしょう。完成する前にチーム内の意見を取り入れることで、施策がスタートした時にスムーズなコミュニケーションが生まれます。
また関係者各位で共通認識を深めるためにも、できる限り図や絵を用いて、視認性が高く、分かりやすいカスタマージャーニーマップを作ることを心がけましょう。
3. カスタマージャーニーマップの事例5選
ここでは、カスタマージャーニーマップによる戦略策定に秀でた企業の事例を5つ紹介します。
3-1. レクサス
トヨタの高級車ブランド「レクサス」は、潜在顧客との接点に重きをおいた組織づくりが、うまくできています。これはカスタマージャーニー分析が功を奏した結果だと言えます。
また同社内の組織構造として、メーカーと販売会社は別立てになっており、それぞれの役割は商品製造と情報発信、店舗における上質な接客という形ではっきりと分かれています。
メーカー側は、潜在顧客がこれまで以上に自社製品に興味を持つよう、ドライビングレッスンのほかに、車というカテゴリにとどまらない「食」関連イベントにも力を入れ、販売店へのハブ形成に努める活動も行っています。
一方で、販売店にはオーナーズルームが設けられ、上質なユーザー体験が可能となっています。レクサスにおいて、潜在顧客層への情報発信と、既存ユーザーへのもてなしは、ブランドとビジネスを支える根幹になっています。
参考書籍:
「The Customer Journey 『選ばれるブランド』になる マーケティングの新技法を大解説」
3-2. 全日本空輸(ANA)
ANAをはじめとした航空各社は、インターネットやスマートフォンの普及によって、Web予約をはじめとした関連サービスが、著しく進化した業態です。
インターネットが普及する前の時代は、搭乗手続きを行う顧客や、乗客をいかにもてなし、安全に現地まで届けるのかが命題でしたが、顧客との接点はいまや、それより前の、予約および購入といったところから始まっています。
最近ではSNSの活用や、モバイルアプリの展開によって、格安航空会社とシェアを奪い合う、若年層の顧客との関係性強化に努める様子が色濃くうかがえます。
「The Customer Journey 『選ばれるブランド』になる マーケティングの新技法を大解説」が同社に取材したところによると、海外市場での売上比率が徐々に高まっていることから、サービスの質の高さを伝える活動が重要度を増し、社内で「カスタマージャーニー」「カスタマーエクスペリエンス」についての議論が増えているそうです。
3-3. LEGO
LEGO webサイト
出展:
The UX ReviewーUser Journeys – The Beginner’s Guide
カスタマージャーニーマップは横方向の時間軸が多いのですが、LEGOがWebサイトの運営のために作成したものは、それらと少し趣向が異なります。
リチャードという少年(ペルソナ)が、ロンドンからニューヨークへ向かう、フライトがイメージされたこのカスタマージャーニーマップは、ホイール型で、その時々の感情がアイコンとして並べられ、サービス体験前と体験中、体験後というフェースで分けられています。
Webサイトは一般的に、ユーザーの滞在時間が長く、循環するほど良いとされますが、それを上手く表現したカスタマージャーニーマップの好例です。
3-4. Adaptive Path
Adaptive Path webサイト
出典:
adaptivepathーExploratorium: Mapping the Experience of Experiments
コンサルティング会社Adaptive Pathが作成した、博物館への来訪を想定したカスタマージャーニーマップも、特徴的です。
博物館は、その施設としての性格上、様々なタイプの顧客が利用するものですが、実際にそれらを2つのマップに分けて、タイプごとにジャーニーを描いています。
Webメディアの運営など、様々な顧客がターゲットとなるような事業は、こうしたカスタマージャーニーマップの作成方法を参考にするとよいでしょう。
3-5. Rail Europe
Rail Europe webサイト
出典:
adaptivepathーThe Anatomy of an Experience Map
こちらは鉄道会社Rail Europeの乗車体験を、カスタマージャーニーマップに落としこんだものです。ペルソナ、消費行動、タッチポイント、心理状態や改善事項などが詳細に書かれているので、、教科書として拝読するのにぴったりな内容となっています。
タッチポイントがアイコンで表現されている点は、どんな従業員でも簡単に理解することができるので大いに評価できます。
4. カスタマージャーニーを学ぶならこの本がオススメ!
「The Customer Journey 「選ばれるブランド」になる マーケティングの新技法を大解説」
Amazonー「The Customer Journey 「選ばれるブランド」になる マーケティングの新技法を大解説」
もしあなたが本記事を読んで、カスタマージャーニーマップを学びたいと考えたら、私は本書をおすすめします。
「カスタマージャーニーマップ」そのものだけでなく、取り巻く環境の変化や、カスタマージャーニーを実現するための、具体的な組織づくり、およびその実例が紹介されています。実に平易な文書で書かれている点も、多くの読者にとってありがたいでしょう。
5. カスタマージャーニーマップの作成・分析ツール4選
カスタマージャーニーマップの作成は、紙やパワーポイントなどを利用しても良いですが、実は以下の4つの便利な作成・分析ツールも存在します。
5-1. UX Recipe
UX Recipeでは、ユーザー体験に必要な構成要素を選び、つなげていくことで、簡単にカスタマージャーニーマップを作成することができます。
5-2. ExperienceFellow(エクスペリエンスフェロー)
ExperienceFellow(エクスペリエンスフェロー)というカスタマージャーニーマップ自動生成ツールも存在します。
依頼者側が、プロジェクトを登録すると、被験者となる顧客がプロジェクトに参加し、体験します。プロジェクト終了後、依頼者は被験者の体験結果を実際のジャーニーマップとして入手します。
5-3. The Customer Journey to Online Purchase
The Customer Journey to Online Purchase
Googleも、カスタマージャーニーマップ分析ツールを提供しています。The Customer Journey to Online Purchaseでは、顧客が商品を購入するまでにどのような接触チャネルがあったのか、そして購入までにどのくらいの日数がかかったのかなどを算出してくれます。
5-4. オーディエンスエビス
オーディエンスエビスでは、デジタルマーケティングの顧客接点を、サービスを横断して「人(オーディエンス)毎に」把握できるため、ユーザー個別の接触履歴を可視化・分析することができます。
業界ごとに、カスタマージャーニーマップの比較もしてくれるので、自社がどの点に秀でている(劣っている)のかを知ることもできます。
導入事例もありますので、ぜひご覧になってください。
参考:
「転職メディアの急成長を支える体制と、カスタマージャーニー分析基盤とは」
今回のまとめ
消費者行動が捉えづらくなっている現代において、カスタマージャーニーマップの作成は、もはや必須といえます。
企業側が顧客の導線を設計し、商品やサービスの認知〜購入に繋げることで、より良いマーケティングを展開することができます。
もちろん、カスタマージャーニーマップは作成して終わりではありません。
検証を繰り返し、よりその時節に応じたものにブラッシュアップしていくことで、精度の高いカスタマージャーニーマップを作り上げ続けることができるのです。
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