ブランディングを成功させるための要素として、「ブランド自ら新しいカテゴリーを作り出し、そのカテゴリーでナンバーワンになる」ということを以前お話ししました。
普通はブランドを事業として成功させるために、「なるべく多くの人にリーチしたい」と考えますから、必然的にニッチ向けになる、この逆説的とも言える考えに目からウロコが落ちた方も多いでしょう。
しかし、この考えのもとでブランディング戦略を展開すると、独自に作り出したセグメントの中ではナンバーワンをとって成功したように思えても、やがてもっと売上をあげたいと考えます。・・・そこで頭に浮かぶのは、ブランド拡張です。
今回は、ブランドを拡張するといったことに焦点を当てて、立ち上げから軌道に乗ったブランドが陥りがちな「ブランド拡張」の際の注意点などをチェックしていきましょう。
ブランド拡張とは何?
そもそもブランド拡張とは何でしょうか?
ブランディング戦略を扱った本(特に著者が海外の方)などに、「ブランド拡張」といった単語で出てくるのですが、あまり耳慣れない言葉ですよね?
ブランド拡張とは、ある製品で確立されたブランドを、他の製品やカテゴリーに使用すること。ブランドの成長戦略を考えるときに、ブランド・エクイティを生かした方法としてよく用いられる。
出典:グロービス経営大学院「MBA用語集:ブランド拡張」
・・・とあります。国内の具体的な例で最近のもので言うと、ライザップ社はブランド拡張をしていますね。
出典:RIZAP会社概要
「自己投資産業」を事業ドメインとすると宣言して、ゴルフ事業や英会話事業をライザップの名前で展開しています。
なぜブランド拡張をするのか?
では、なぜブランド拡張をするのでしょうか?
ブランドを作り、世の人々に認知してもらい、ブランドが発信するメッセージを理解してもらうには時間がかかります。
ひとつのブランドですらそうなのに、なぜブランドを拡張しようとするのでしょうか?新しい名前をつけたり、ターゲットを変えたりすることに何のメリットがあるのでしょうか?
「ブランディング22の法則」で著者は次のように言います。
シボレーには十の車種がある。フォードには八車種ある。フォードがシボレーを売上で抜き去っている理由の一つがこれである。ブランドのパワーはその広がりに反比例するのである。シボレーはなぜこれだけの車種を販売するのだろうか。なぜならもっと車を売りたいのである。
・・・「もっと売りたいから」おそらくこれが理由ではないでしょうか?
ブランドを立ち上げて時間が経つと、安定的にファンが増えてきて、だんだんと売上の伸びが鈍化します。あるいはそうでなくても、もっと売上を伸ばしたいと考えます。
こうした状況下では、誰しもブランド拡張する施策が頭をよぎるはずです。もっと「売上を伸ばしたい」と思う気持ちが強ければ強いほど、その傾向は高まります。
つまりブランド拡張はブランディングのため、というよりは事業の成長のためといった意味合いが強いと言えます。
ブランド拡張のデメリット
しかし、ブランド拡張をすることで売上を伸ばすことができたら、何の問題もないように思います。
ブランド拡張に何のデメリットがあるのでしょうか?
出典:FANDOM powered by Wikia「Chevrolet logo」
「ブランディング22の法則」の中で、著者はシボレーの事例を挙げたあとに、こう言います。
短期的には確かに売れる。しかし長期的に見るとこれは消費者の頭の中にあるブランドネームを傷つける。(中略)あなたは明日製品を売るために、今日ブランドを築くのだろうか。あるいは今日その製品を売るために、今日ブランドを拡大し、明日それが衰退する様を目にするのだろうか。
かなり厳しい言葉ですが、ブランディングにとてつもなく時間がかかることを考えると、著者がこう言いたくなる気持ちもわかります。
「エルメスのライバルは虎屋」というお話を以前お伝えしましたが、虎屋は約500年でエルメスは約180年の歴史があります。もし虎屋とエルメスが、別事業に同じ名前で参入したらどんな印象を得るでしょうか?
もちろん人それぞれだと思いますが、その別事業によっては築き上げたブランドイメージが壊れる可能性もありますよね。
それだけ、ブランド拡張にはリスクが伴うことなのです。
「ブランド論」で著者のデービッド・アーカーはブランド拡張の課題を以下のように述べています。
ブランドを資産として見るようになれば、その資産を活用して、ほとんどの企業の目的である成長を生み出すチャンスが生まれる。(中略)とはいえ、”資産としてのブランド”モデルにおける目的は、単に効果的なブランド拡張を実現することではなく、ブランドおよびブランド・ポートフォリオ全体を増強することにある。戦略的で、より視野の広い視点がもたらされるのである。
ここで述べられていることは、既存のブランドを別の製品やカテゴリーに展開することで、それまでブランドが築いてきた資産を活用することが期待できるものの、視野を広く持ち戦略的に行わないとならない。ということです。
ブランド拡張によって仮に短期的な売上が上がるかもしれませんが、戦略的に行わないとブランドを毀損してしまうというデメリットもあるのです。
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