大型書店に足を運ぶと、ビジネス書コーナーで「IoT(Internet of Things:モノのインターネット)」という言葉が飛び交っていることに気付きます。今年の流行語大賞にノミネートされる勢いですね。
「しょせん一過性のバズワードだ」と思っていましたが、調べれば調べるほど様々な業界を大きく揺るがす可能性に満ちていることがわかりました。
そこで、今回はIoT(Internet of Things)がなぜ取り上げられているのか、メーカーの目線から、その可能性についてまとめてみました。
そもそも「IoT」とは何か?
「IoT」の歴史は、バーコードに代わる仕組みとして「RFID」を提唱し、1999年に創設された非営利研究機関であるオートIDセンターから始まります。
「RFID」とは簡単に言うと、電波(Radio Frequency)を使ってIDを読み書きする仕組みです。バーコードと比べると、①取り扱えるデータ容量が約10倍〜1000倍、②読取距離は約5倍で途中に遮断物があっても交信可能、③汚れ等に強い、といった特徴を持っています。
2015年現在、「RFID」は様々な場面で活用されています。身近なところで言えば、オフィスの入退室管理のカードがそうです。ZARAではRFIDを用いて商品管理を行い、棚卸や発注に役立てています。2015年の東京マラソンでは、RFIDとSNSが連動して特定地点を通過する毎に通過タイムが自動投稿されるサービスが好評でした。
1999年当時、RFIDをあらゆるモノに貼付けて、そのモノの履歴をインターネット経由で取得できれば、製造、物流、販売に革命が起きると言われていました。
なぜなら、製造したモノは、製造以降どの物流に乗ってどこで販売されたのか解からなかったのです。ネットワークが分断されているので、違う領域に移ると追跡できなかったのです。
図1:それぞれのネットワークは分断された状態だった
ですが、モノにRFIDが貼付けられれば、そのIDをキーにしてそれぞれのネットワーク上の履歴を紐付けることができます。
この技術が例えばサプライチェーンで実用化された場合を想定します。
販売のネットワーク上からどの店で何個売れたかが解ると、即座に物流のネットワークが反応して在庫を補充し、在庫の分だけ製造のネットワーク内でモノが作られます。
つまりトヨタ生産方式で叫ばれた「7つのムダ」が理論上は発生しない仕組みが誕生する可能性を秘めていました。
図2:「RFID」によってそれぞれのネットワークが繋がった
オートIDセンターの中心人物であるMITのケビン・アシュトンはこの状況を「モノのインターネット化」(internet of thing)と表現しました。
これが、「IoT」の始まりです。
ここでいわれる「インターネット」とは、複数のネットワークを単一のように機能させるという意味を持つ一般名詞の「internet」(internetworking)を意味しています。つまり、モノが(正確に言うとモノに貼付けたRFIDが)、複数のネットワークをインターネットワークしてくれることを指して「IoT」と表現したのです。
それから時が経ち、コンピュータは小さくなり、省力化が進み、なにより安価になりました。
モノ自体が、TCP/IP技術でインターネットに接続できるようになったのです。あらゆる機械がコンピュータになり、モノ自体が自分の居場所が製造なのか、物流なのか、販売なのかを発信できるようになりました。
これが、今言われている「IoT」です。モノ自体にインターネットに接続する環境ができた、ということです。
ここでいわれるインターネットとは、誰もが(このブログを見ているあなたも)利用している固有名詞の「Internet」を意味しています。固有名詞なので、最初の文字が大文字になります。
アシュトンの表現した「IoT」と、現在言われている「IoT」の違いは、「データ」にあると考えています。
前者は、ネットワークに散らばるデータを、モノに付与されたIDによって紐付け、追跡を可能にしました。つまりデータを結ぶ役割を担っています。
後者は、モノ自体がデータを生成し、ネットワークが違っても一気通貫に追跡できるようになっています。つまりデータを生む役割を担っています。
大量のデータを分析できる基盤が整備されたこと、そしてコンピュータのあらゆる省力化の流れに乗って、「IoT」は一気に浸透していきました。
「IoT」が浸透すると何が変わるのか?
ドイツが自国の製造業の競争力を維持・強化するために国をあげて推進している「インダストリー4.0(第4次産業革命)」と合わせて考えると、「IoT」の凄さが解ります。
「インダストリー4.0」とは簡単に言うと「生産性の極めて高いスマートプラント(考える工場)」の実現です。
そもそもトヨタ生産方式に代表される「カイゼン」によって、多品種少量生産の生産プロセスは改革され、既に生産性は限界まで高まっています。
しかし、時代は「自分だけの製品」を求めるようになっており、現在の生産性を維持したままで一品大量生産が求められています。
図3:生産プロセスは進化を遂げ、「第4次産業革命」へと進化している
実現するためには工場内でのカイゼンに留まらず、製造業のプロセス全体、バリューチェーンそのものをカイゼンする必要があると言われています。
そこで必要なのが、工場同士、異なる企業同士、さらには工場と消費者をインターネットで直接繋ぐ「IoT」です。
部品メーカー、組立工場、物流トラック、販売メーカー、これらの現場がインターネット上で結び付き、機械同士がデータで「会話」することで、一品毎に最適な経路が選択されます。これをバリューチェーン・オプティマイゼーションと呼ぶようです。
例えば、部品1つ毎に最安値のメーカーから自動で調達されたり、人手を要せずラインが自動で組み代わったり、或いは人手の熟練度に応じてラインの進み具合が変わる等、様々な事例があります。
その結果、単純作業は機械化され、人間は機械に代わって「判断」を求められるようになるという報告もあります。
人間の雇用にさえ影響を及ぼすのが「IoT」なのです。
「IoT」の課題とは?
今まで、コンピュータ同士を繋ぐインターネットには必ず利用者として人間がいました。しかし、これからのインターネットには機械も接続するようになります。つまり、データがますます増えます。
そこで「データは誰が管理するのか?」という課題が浮かんできました。
例えば、警察庁からの情報を受けて公益団体が発表している「渋滞予測」を、個人が過去データを分析して勝手に発表し出した場合、信憑性の低いデータが市場に流通する可能性があります。
公共性の高いデータの所有権は「公」が管理したほうがいいのですが、オープンデータとの兼ね合いをどう付けるかの議論はなかなか前に進んでいません。
あわせてプライバシーの問題もあります。データの第三者提供はオプトアウトできる環境が原則ですが、世の中全てのモノがインターネットにつながった世界で1つ1つオプトアウトする手間を考えると発狂しそうです。
他にも規格・標準化という課題もあります。
先行して議論を始めているドイツでも、IoTに関するルール作りについて産学官がディスカッションを始めていますが、全てが落着するまでに15〜20年はかかるだろうと言われています。
ドイツに追い付けとばかりに、アメリカ、ドイツ等の国が動き始めています。民間レベルでは、GE、テスラ、ソフトバンク…様々な企業が動き始めています。業種を問わず多くのステークホルダーがいる中で、誰が鈴を付けるのかはまだ全く決まっていません。
まとめ
IoTは現在、製造業で注目を浴びていますが、マーケティング領域でも活用されると見られています。
その代表例が、オンラインとオフラインをまたがったマーケティングです。
もし「IoT」が導入されれば、RFIDが内蔵された製品の製造から購入までのデータが、オンライン上のアクセスログやオフライン上の広告に接触したデータに紐付きます。
実現すれば、売上を最大化するために最適なマーケティング施策を人単位・地域単位で実行できる可能性を秘めています(もちろん前述したプライバシーの問題を抱えていますが)。
すでに「デジタルの効果最大化は重要だが、それはデジタルだけの部分最適でしかない」という認識が広がり始めている昨今、意外とすぐにIoTの波はマーケティングに押し寄せるかもしれません。
そのうち、アドエビスシリーズからも「IoTエビス」が出てくるかもしれません。笑
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