テレビCMの出稿と聞くと、高額だと思う人がほとんどでしょう。
あるいは出稿しても効果が可視化できないからと、二の足を踏む人も少なくないはずです。
そんな人にとって、企画制作から放映・効果分析までを少額から一貫して任せることができる『ノバセル』は、まさに眼から鱗の革新的なサービスです。
ノバセルは、ネット印刷「ラクスル」を手掛けるラクスル株式会社のテレビCMサービスとして2020年4月に正式にスタート。ラクスル・ハコベルに続く3番目の事業となります。
どのような経緯でノバセルは誕生し、どのような成功事例があるのでしょうか。テレビCM運用の大事な3つのポイントと独自のマーケティング観について、同社の取締役CMOでありノバセルの事業責任者でもある田部 正樹さんにお話を伺いました。
ノバセル誕生の経緯、「運用型テレビCM」という新しい概念
我々はラクスルのマーケティング施策の一環として2014年からテレビCMに取り組んできました。その過程で売上が約7億から約210億とBtoBのスタートアップとしては大きな成長を遂げてきたのですが、テレビCMはWebマーケティングに比べて効果が可視化ができないということで、初めから大きな金額でトライするということができませんでした。
そこで投資に対する効果を明らかにするため、テレビCMの放映時間に合わせて分単位でGoogleアナリティクスのデータを見て、どんな効果が出てきたかをずっと自分の手で分析をしてきました。
この分析によって、テレビCMにいくら投資するとどれくらいの回収ができて、売上インパクトがどれだけ出るかということが大体わかるようになったのです。このモデルを他社に外販しようと始めたのが「ノバセル」というサービスです。
「Googleアナリティクスのデータを分単位で見て分析」と口で言うのは簡単ですが、実行には膨大な時間と手間が伴います。ノバセルが誕生するまでは、田部さんご自身がエクセルやBIツール「Tableau(タブロー)」を駆使して、数十時間をかけて分析していたそうです。
それがノバセルのクラウド型テレビCM効果測定ツール「ノバセルアナリティクス」なら、Webマーケティングのように効果を可視化しながら、簡単にテレビCMを運用することができるようになりました。
この「運用型テレビCM」という新しい概念を掲げ、ノバセルは精度の高い天気予報でお馴染みのウェザーニューズ社のアプリ「ウェザーニュース」における取り組みで、一つの成功事例を作ります。
テレビCMで検証すべき大事な3つのポイント
ウェザーニューズ様はもともとWebマーケティングを自社でやられていて、効果の可視化もかなりクリアにできていました。しかし、それゆえにテレビCMは不透明性が高いと考え、なかなか乗り出せない状況でした。
そこで我々に声をかけていただき、まさにWebマーケティングのようにテレビCMを運用していこうと2019年から取り組みをスタートさせたんです。
クリエイティブを訴求違いやエリア違いで合計120本ほど作り、「ノバセルアナリティクス」を駆使して効果を可視化しながらチューニングを続けた結果、ダウンロード数を1,700万から2,000万まで増加させました。
クリエイティブ120本と聞くと数に圧倒され、まるで大量にクリエイティブを作ってPDCAを回すことが成功の秘訣だと思うかもしれません。しかし田部さんは「クリエイティブを作れば作るほど仮説検証はしやすくなる」としながらも、テレビCMで検証しなくてはならないこととして、そもそも大事なポイントが3つあると言います。
「ターゲット」「ニーズ喚起」「訴求」この3つを同時に仮説を立てて検証していきます。どういうターゲットがどういうシーンで使うものなのか、どういう機能を訴求すると一番効果があるのか、この3つの掛け合わせで決まるからです。
クライアントに現状をヒアリングしたり、現在使っていないユーザーにどうすれば使ってくれるかを聞いたりして3つそれぞれの仮説を立て、Webマーケでテストして仮説の精度を上げてからテレビCMにかけていきます。
例えば訴求で言うと、ウェザーニュースは現在の気温を表示する機能、5分単位で天気が分かる機能、雨雲のレーダなど、全然違う機能が7個ほどあります。
この機能のうちどの訴求が良いかを検討するために、掛け合わせでクリエイティブを120個ほど作り、デイリーベースで差し替えてリアルタイムに算出されるCPIやダウンロード数を見ながら「来週はこうしよう」みたいなことを決めていくのです。
では訴求すべき機能が決まれば成果が上がるかと言うと、そう簡単な話ではありません。利便性の高さは確かに重要ですが、そもそも顧客は別の理由でウェザーニュースのダウンロードを躊躇っていました。
ウェザーニュースを使っていない人に話を聞くと、アプリの天気予報はあやしいって思う人が多かったんです。その人たちはテレビの天気予報を盲目的に信じています。
しかしウェザーニューズは天気予報番組の裏側のシステムを担っている会社なので、精度が非常に高い。なので「天気予報の精度が90%以上」といったコピーをクリエイティブに入れるようにしたんです。
顧客の心情を推し量り、試行錯誤と幾度ものPDCAを経た結果、ウェザーニュースはダウンロード数を伸ばし続け、数多あるアプリを抑えてApp Storeのダウンロードランキングで最高2位、Google Play(Android)で最高1位を記録。今まで効果がブラックボックス化していたテレビCMを「運用」することで、アプリ以外にもSaaSやBtoC商材でもCPAを明らかにして成果を上げています。
ここまでの話を聞くと、田部さんのことを優秀な「マーケター」だと思う人がほとんどかもしれません。しかし、田部さんはマーケターではなく経営者。過去のご経歴を紐解くと、田部さん独自のマーケティング観が浮かび上がってきました。
見据えるはCMOの立場とマーケティングの価値向上
新卒で丸井グループに入社したあと、2007年にウェディング事業を展開するテイクアンドギヴ・ニーズに入社しました。事業戦略室の室長に就任してからは、それまでに経験したプロモーションから、PLを改善したり企業価値を上げたりといった、より経営に近い経験を積みました。
プロモーションはあくまで1つのツールであって、例えば1憶円の予算があってもこれを使わずに価格を安くした方がいいという場合もあるし、人を30人採用した方がいいケースもある。これらを同じ土俵で考える仕事をしていたんですね。
この時にちゃんと事業を伸ばして企業価値を上げるために、最適な戦略やロケーションは何かというところから考えます。商品が本当に顧客の課題を捉えているのか、といったことの方がプロモーションより重要で、最後の末端にあるのがテレビCMとかWebマーケティングなんです。
だから僕自身マーケターだと思っていなくて、事業を伸ばす責任者をずっとやってきたという感覚です。
しかし「マーケティング」に関する一般的な認識は、プロモーション色が強いと言わざるを得ません。特にWebマーケティングにおいては、クリエイティブ制作や広告運用の領域まで包括した販売促進(プロモーション)に終止する場合もあります。
「マーケティング ≒ プロモーション」ではなく、本来のマーケティングは広義でより経営に近いはず。しかし人々の認識にはズレがあり、そのズレは思わぬところでも生まれています。最後にこれからのビジョンを伺うと、田部さんはこのようなことを口にしました。
CMO※1って何となく今一番格下って感じなんですよね。世の中的には。CFOがいて、COOがいて、CTOがいて、CMOみたいな。多くの会社では採用されていないですし、そうじゃない人もいますけど、なんとなく格下感がある。
これはなぜかというと、プロモーションだけやっている延長線上にCMOがあるからだと思います。しかし本来は売上・利益・企業価値を全部背負って会社をグロースさせるっていうことに対してコミットするのがCMOだと、僕は思っています。少なくとも私はそうしてきました。
だから、そういう総合格闘技で事業成長にコミットできる人材を増やしていくことによって、日本におけるマーケターの立場やマーケティングの価値自体を向上させていけるといいなと、思っているんです。
「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」がビジョンのラクスル社で「マーケティングの民主化」※2を掲げ、ノバセルの成長に全身全霊を捧げる田部さん。
ノバセルに懸ける想いの深い部分には、マーケティングを通じて世界をもっと良くしたいと願う強く堅固な意志が在りました。
※1 CMO:Chief Marketing Officerの略。最高マーケティング責任者のことを指す。
※2 「マーケティングの民主化」については、田部さんのnoteに詳しく書いてあります。
「ラクスル・ハコベルに続く第三の事業は「ノバセル」。事業に込めた想いを語る5,382文字の初note。」
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