『人は悪魔に熱狂する』著者が語る。データに踊らされずに顧客インサイトと向き合う方法とは?

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「人間の内面には天使(エンジェル)と悪魔(デビル)が存在する」

いきなり言われても驚くだけの言葉です。

しかし、行動経済学の視点から顧客心理の裏側を解き明かした一冊『人は悪魔に熱狂する』の著者、松本健太郎さんが語ると深い洞察に裏打ちされた顧客インサイトの話になります。

データと上手に付き合い、顧客の気持ちを理解することはマーケターにとって永遠のテーマ。ありとあらゆるものがデータ化される現代において、データに踊らされずに顧客インサイトと向き合う方法をお聞きしました。

お客さんは結構いい加減に商品を選ぶもの

『人は悪魔に熱狂する』を執筆したきっかけに、「エンジェルインサイト」と「デビルインサイト」があります。これは顧客のインサイトリサーチを専門とする前職、デコムに勤めていた時に学んだものです。

当時の気づきは、「多くの企業やマーケターが顧客の一面にばかり目を向けてインサイトを設計している」ということ。

人間には健やか・朗らかで人を助けたい、愛したいという善の部分(エンジェルインサイト)が存在します。一方で、卑しい怠け心やズルしたい気持ち(デビルインサイト)も同時に持っているのが人間です。

株式会社JX通信社 松本健太郎様

例えば以前、シリアルを販売している会社で「なぜ朝ごはんに自社の商品が選ばれないのか」という課題がありました。

その企業では「こんな訴求はどうか」とクリエイティブを考えはじめたのですが、そもそも「朝ごはんは抜きにしてお昼にガツっと食べよう」みたいな、”人間の怠惰な部分”も根底には存在するじゃないですか?

本来は「お客さんは必ず朝ごはんを食べる」という思い込みから、疑ってかからなアカンやろと思うんです。

このように「見過ごされがちな人間のデビルインサイトをより深く理解したい」という想いから、『人は悪魔に熱狂する』は生まれました。

企業は「お客さんは善というスタートから考え過ぎ」と語る松本さん。マーケティングが理想通りにワークしない本質的な要因には、デビルインサイトを見つめきれていないことが挙げられるのかもしれません。

続けて、そもそも「顧客は明確な理由をもって商品を選ぶのか?」というテーマに切り込みます。

よく耳にするのが「商品はお客さんに選ばれて購入されている」という考え。これもエンジェルインサイトばかりに目がいってる考えだと思います。

企業側は機能的に優位だから選ばれていると思っていても、お客さんに聞くと「ただパッと見で安かったから買った」「特に理由はなく、なんとなく選んだ」という場合はよくあるんです。

つまり、”お客さんって結構いい加減に商品を選んでいるもの”なんですね。

自分が商品を購入する場面を想像してみても、全ての商品選びに明確な理由をもっているわけではないはず。だからこそマーケターは、お客さん自身も自覚してないインサイトを洞察し、多面的に顧客理解を深めていかなくてはなりません。

一方で「データマーケティング」と呼ばれる領域で飛び交うのは、「imp(インプレッション)」や「CPA(顧客獲得単価)」といった定量的なデータです。

しかし、このデータさえあれば正しい打ち手を導けるかというと決してそうではありません。

例えば「先月CPA8,000円台で今月は15,000円台だった」は明確な答えであり真実です。でも「なぜCPAは上がったのか?」の答えはデータだけ眺めていても深い仮説は導けません。

現実問題として手元のデータから仮説を立てないといけない場面は多いですが、マーケターが今あるデータから無理やり仮説を立てている場面も正直多いですよね。

ちょっと業界に釘を刺すようですが、そもそもデータドリブンの定義が狭すぎるような気がしています。「数字さえあれば」というのは違うんじゃないですか。それこそ、インターネットが登場する以前のマーケターは定性情報も含めて判断してたわけですよね。

顧客の解像度を高めて仮説を磨いていくためにも、定量分析と定性分析をミックスして進めるのが本来のデータドリブンマーケティングだと考えています。

データを過信していた過去。そして「データに囚われない」へ。

ただ、私自身もともとデータを過信していました。

マーケティングメトリックス研究所※の所長を務めていた頃は、「数字こそ全てだ!」みたいな考えだったのです。その後、経験を重ねる過程で自分が見ていたデータでは見えない情報があまりにも多いことに気づきました。

インサイトの発掘という点において命をかけてるような人たち。例えば、「P&Gマフィア」と呼ばれる方々の考えに触れると、定量・定性を含めてこんなにもデータには幅があるものなのかと気づかされたのです。

松本さんは現在、ネットを通じてニュース速報などの情報提供サービスを届ける「JX通信社」にて、BtoB向けプロダクトの立ち上げ、BtoC向けアプリのプロモーションを手がけられています。

データを過信していた過去の自分と決別し、データの幅広さに気づいた今。サービスの立ち上げ時に意識していたことは、意外にもデータに囚われないことだったそうです。

何が勝ちパターンか見えない状態で細かいデータに囚われるくらいなら、まずやってみて判断するくらいの気持ちが重要。BtoB向けのAIリスク情報配信サービス『ファストアラート』のマーケティング部門の立ち上げで大事にしたことは、初期フェーズにおいて細かくデータを追わないことです。

例えばリード創出件数や商談への移行数は見ていますが、それ以外のデータを今のフェーズで判断してもしゃあないやろと。

事前に定めた目標数に到達するまでは、ひたすら量を追い求めていくと割り切って進めてきました。

このある種のいい加減さがあったから、スピード感をもって数字が伸びていったんだと思います。もちろん、マーケティングの力だけではないのですが、1年かけて売上は一気に成長しています。

「定量データで知れることは顧客のほんの一部」と言われても、目の前にある定量データに答えを求めるマーケターは多いでしょう。松本さんは、データにあらわれないインサイトを洞察する重要性を改めて説きます。

データマーケティングで大事なことって、データを足したり引いたりすることではないはずです。仮に必要なデータが100%だとして、50%しか取りようがありませんってなった時に、取れてない残り50%のデータを洞察して、情報を補いながら仮説を構築する力が最も重要です。

残りの50%は、マーケターの洞察力でもって仮説の解像度を上げるという姿勢ですね。

さらに取れているデータはお客さんのエンジェルインサイトに関するものだけかもしれません。その裏に隠れているデビルインサイトを見抜く力も大事です。

人間を100%理解することは難しいですが、日頃から意識を変えて人間を洞察することで、人間理解度は磨かれていくのではないでしょうか。

※マーケティングメトリックス研究所:マーケティング活動におけるデータ分析の有益な情報を発信し、より多くの方々に最適化テクノロジーを利用可能にすることを目的に株式会社イルグルムが2010年に設立した研究所のこと。

エンジンは「過去に感じた劣等感」

インタビューの最後に、マーケター・データサイエンティストとして今後どのような方向に進んでいきたいのか、松本さんに未来のビジョンを伺うと、意外な答えが返ってきました。

自分自身の今後の目標でいうと・・・なぁーんもないんですよね(笑)。これは一貫してなんですけど、僕は特に目標を設けないんですよ。理由はすごくシンプルで、「絶対こうなるんだ!」と目標を置いてしまうと、そのほかの選択肢を消してしまうじゃないですか。

自分のこれまでのキャリアを振り返ってみても、新卒時代は営業職でキャリアをスタートさせ、その後エンジニア・データサイエンスときて、まさか今の会社でマーケティング職に就くなんて数年前には想像できませんでした。

「目標はない」としつつも、著書やnoteを読めば人並みならぬ努力や情熱が宿っていることは明らか。何が松本さんを駆り立てているのでしょうか。

根っこの部分のエンジンは何かというと、「過去に感じた劣等感」でしょうか。おかげさまでマーケティング関係のイベントに登壇させてもらう機会も増え、素晴らしい著名なマーケターの方々とお話することも増えたのですが、そのたび「自分はまだまだやなー」って感じるんです。

劣等感を払拭して人前に出て恥ずかしくないようになるためには、圧倒的な知識量をつけるために、ひたすら勉強するしかないんですよね。

勉強すればするほどわからんことが増えてきて、また勉強しての繰り返しですが、自分の発言が批判に繋がらないようにするためにも、圧倒的な知識量は必要だと信じています。

人間の内面、天使(エンジェル)だけを見たくなるのは人の性かもしれません。

しかし、悪魔(デビル)にも目を向け、安易にデータに踊らされない洞察力こそ、データが溢れる今の時代に問われるマーケターの素養だといえるのではないでしょうか。

そこまで体現しながらも、「わからないことばかり」と探究する歩みを止めない松本さん。これからの益々のご活躍が楽しみでなりません。

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