「Ring Again」の舞台裏。DeNA西村マサヤの「マーケティング思考」と2つのフレームに迫る。

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「Ring Again(リングアゲイン)」が注目を集めているのをご存じですか?

“リウマチ”という普段の生活ではあまり耳慣れない病気に関するプロジェクトですが、Twitterの関連キーワードでのツイート回数が4,000件以上、ハッシュタグ「#いい夫婦の指輪事情」がトレンド入り、Youtubeの動画再生数が10万再生を達成するなど、非常に多くの人々の興味・関心を惹きつけることに成功しています。

今回はこの「Ring Again」プロジェクトの舞台裏、そして企画を成功に導くマーケターの思考に迫ってみたいと思います。話を伺ったのは、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)の西村マサヤさんです。

指輪=健康のアイテムという新しい価値

「Ring Again」は関節リウマチという病気のリスク、特に初期症状について多くの人に知ってもらうためのプロジェクトです。

https://ringagain.jp/

関節リウマチは関節が炎症を起こして腫れたり痛んだりする病気で、日本に約70〜80万人の患者さんがいます。※1

放っておくと関節が変形し、日常生活が大きく制限されることもある病気ですが、十分に認知されているとは言えません。

少しでも早く初期症状に気付いて病院に行ってほしいのですが、それを真正面から伝えても、人の心は動かない。だから今回は“結婚指輪”に着目しました。

 

「Ring Again」の源となるアイディアには論理的な裏付けもあると、西村さんは言葉を続けました。

株式会社ディー・エヌ・エー 西村マサヤ 様

患者さんのブログなどを見ていると、指輪でリウマチの初期症状に気づいた人がいました。一方で、関節リウマチ患者数が増加する40代において、夫婦の2人に1人はもう指輪を付けてないというデータもありました。※2

これはマーケティング・コミュニケーションの核になりうるファクトだとひらめきました。

指輪を付けていれば、入りづらい、抜けづらいといった指の異変に気付く可能性が高まります。何年も指輪を外していた夫婦にとっては、今さら付けるって少し照れるかもしれないけど、指輪に「健康のアイテム」という新しい価値を創ることでリウマチに気づいてもらう。これが「Ring Again」のコンセプトです。

 

実は「Ring Again」の企画書は発想の背景から企画の展開方法に至るまで、95枚もあります。全てを紹介することはできませんが、西村さんは「企画の中心要素には2つのフレームがある」と言います。

※1 出典:厚生科学審議会疾病対策部会 リウマチ・アレルギー対策委員会報告
※2 出典:【楽天ウェディング】既婚男女の「結婚指輪」に関する実態調査

2つのフレーム:「Reason to Believe」と「コア&モア戦略」

今回の企画は「Reason to Believe(RTB)」と「コア&モア戦略」という2つのフレームをベースに全体の構造を整理しています。

「RTB」を僕なりに解釈すると、「マーケティングメッセージの根拠」です。

 

「リウマチは危ない病気だから気を付けよう」というメッセージだけでは、人々への注意喚起として弱い。「当たり前」の情報では人の心は動きません。

 

「Ring Again」の核には、実際に「指輪でリウマチの初期症状に気づいた人がいる」「関節リウマチの患者が増える40代のうち、2人に1人は結婚指輪をつけていない」というファクトがあります。このファクトこそ「RTB」です。

さらに、「Ring Again」では指輪が「健康のアイテム」かもしれないとSNSで話題をつくることで、受け手起点のコミュニケーションを生み出しています。

ローンチタイミングである11月22日、「いい夫婦の日」には「#いい夫婦の指輪事情」をプロジェクトのコンセプト動画と共に公開。同日のTwitterトレンド入りを達成させ、「いい夫婦の日に指輪の広告かと思ったら、関節リウマチの話だった…」という驚きを生むことに成功しました。

ヘルスケアに関わる人は「みんなに健康になってほしい」という想いが強いため、コミュニケーションが「作り手都合」になりがちです。僕はこれを「受け手起点」に変えることが大事だと考えており、今回もその点を強く意識しています。

つづいて「コア&モア戦略」とは、ブランドを支える「”コア”ファン」の離反を生まず、「新しい客層(モア)」の獲得を継続的に行う戦略を指します。両者のバランスをとるのは非常に難しいのですが、マーケティングが上手な会社はここに成功しています。

「Ring Again」の場合、コアは関節リウマチを知っていて、自分がそうかもと思ったことがある人です。残念ながらそういった人は多いとは言えず、ほとんどの方が関節リウマチを知らない状況です。

「関節リウマチを知らない人にアプローチするために、とにかく知名度の高いものとコラボしよう」普通はそういった発想になりがちです。例えば今なら『鬼滅の刃』とコラボすれば日本のかなりの人数にリーチすることができます。

ですが、『鬼滅の刃』は関節リウマチとは関係ありません。こういった発想が「モア拡大」の典型的な失敗例。モアは既存のコアファンやプロダクトのコアバリューとのひも付け方や距離感を大切にしながら、新たな広いマーケットを狙う必要があるんです。

そこで西村さんが着目したのは、先述した通り「結婚指輪」でした。関節リウマチ患者だけでは小さいマーケットが、対象を夫婦にすることでマーケットが拡大します。

 

「Ring Again」のコンセプトは結婚指輪をしなくなった夫婦に一番響きます。本来は約70〜80万程度しかなかったリウマチのマーケット(対象ボリューム)が、対象を夫婦にすることで一気に数千万人まで拡大します。

関節リウマチだけをテーマにしてTwitterのトレンド入りするなんて絶対に不可能です。多くの方にリーチするには、このターゲット設定が肝なのです。

※「Reason To Believe」と「コア&モア戦略」をさらに詳しく知りたい方は、西村さんのnoteをぜひ参考にしてみてください。

マーケティングとは「価値の創造」

西村さんは関節リウマチの啓発という難しいお題に対して、「マーケットが小さい」という最重要課題に着目し、迷わずマーケットを拡大するという選択肢をとりました。

この発想に行き着く原点を紐解くと、マーケター西村さんが創られる原体験があります。

 

僕はお笑いが大好きでクラスでも人気者の小学生でした。それが中学では全く校風に馴染めず、ストレスから頻尿や円形脱毛症になって地獄を見ました。

小学生の頃は面白いことを企画したり、発信することができれば人気者になれた。しかし、中学では一転、スクールカーストの底辺に。僕自身の発想力やコミュニケーション力はなんにも変わっていないのに、環境が変わっただけで自分の価値が激減しました。

この出来事から、自分が何ができるかというのと同じくらい、自分がどのマーケットで勝負するかということもすごく大事だと気づいたのです。

 

ただ「つらい」で終わらずに、「マーケットがよくない」と考える中学生も驚きですが、ここで話は終わらず、西村少年がしたつらい体験はDeNAでマーケターとして活躍する今に結実していきます。

過去の体験を乗り越え、西村さんは世に新たな価値を生み出す「マーケター」として、これからも様々なプロジェクトを軌道に乗せていくことでしょう。

本記事のタイトルでもある「マーケティング思考」を身につける方法を
西村さんがnoteにまとめています。ぜひご覧ください!

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