「マーケティングトレース」がSNSを中心に大きな注目を集めています。
デザイナーが優れたUIを真似て学ぶように、優れたビジネスモデルやマーケティング戦略を模倣することで、マーケターのリテラシーを高めるトレーニングはないか?
この疑問に答えるべく、トレーニングを体系化して「マーケティングトレース」に昇華した人がいます。
マーケティングトレース誕生の背景には、どのような想いや苦労があったのでしょうか。そしてトレースする上で知っておきたい「良い模倣」とは、どんな模倣でしょうか。
ブランディングテクノロジー株式会社の黒澤 友貴さんにお話を伺いました。
思いつきではじめたマーケティングトレース
マーケティングトレースを始めて3年。Facebookグループのコミュニティは8,600人を超え、オンラインサロンも立ち上げました。
でも最初は自分のトレーニングのために思いつきで始めて、コミュニティを作ろうなんて思っていなかったんです。
しかし予想以上に「マーケティング戦略を考えたいけど方法がわからない」といった悩みを抱えていたり、マーケティングがただの憧れで終わってしまって、先々のキャリアが描けなかったりする人が多いと気づきました。
それならコミュニティを作って、その人たち同士がつながることで「トレーニングをやってみよう」とか「継続しよう」と思えた方がいいですよね。
いま思えば、コミュニティがなかったら、マーケティングトレースはここまで広がっていないかもしれません。
マーケティングトレースのコミュニティは2つあります。ゆるくつながり、マーケティングトレースに関する情報を伝えるFacebookグループと、「CMOを目指す」をコンセプトに掲げるオンラインサロンです。
後者はコアで密度の高い情報を発信しつつ、実際にマーケティングトレースをフィードバックしあったり、より実戦に近いリアルなケーススタディを学んだりします。
コミュニティに参加する人は大きく2つに分かれます。
1つはまだ特定チャネルの最適化しかできていないマーケター。インターネット広告の運用、SNS運用やSEOといった部分的な仕事をしつつ、将来的にはCMOを目指すような、キャリア志向が強い人が多い印象です。
あとはこれからマーケティングを学び、実践してみたい人たちですね。ここは層が厚く、学生もいます。
現職のマーケターだけではなく、学生までコミュニティに参加していることからも、マーケティングトレースに関わる人々の裾野はとても広いと言えます。
なぜここまで多くの人々がマーケティングに興味を持つのでしょうか。黒澤さんは言葉を続けます。
個人的な意見ですが、著名なマーケターの発信が増えたことは要因の一つだと思います。
さらに発信を受ける側の、現状に行き詰まる企業が多いのもまた事実です。
外部環境の変化は常にありますし、日本の市場は小さくなっていくと予想されますよね。
今まで通りの方法で営業に依存するのではなく、新しいマーケットを開拓して機会を創ることが求められるからこそ、これだけ多くの人が「マーケティング」に注目しているのかもしれません。
マーケティングの注目度が高まるのと並行するように、人々が話題にする機会が増えた「マーケティングトレース」。誕生までには、黒澤さんの切実な想いや苦労がありました。
人生を変えたクライアントと一冊の本
私が入社したブランディングテクノロジーは、地方・中小企業様のブランディング・マーケティング領域の支援をする会社です。
入社当初から経営者と話す機会は多かったのですが、インターネット広告の運用改善を提案しながら、ずっともやもやしている自分がいたんです。
今ならわかるのですが、自分は経営者相手にクリック率がどうとか、CPAをどう改善するかみたいな話しかしていませんでした。
経営者にとって無意味なことしか話していないんです(笑)
だから、まともに相手にしてもらえなかったんですね。
でも4年目に大阪に転勤すると共に、転機が訪れました。
それまでより規模が大きく利益率も高い、ビジネスモデルが非常に優れている企業がクライアントになりました。その企業に出会ったことが、僕の人生を変えたんです。
この出会いを通じて、そもそもビジネスモデルを間違えていたり、戦略がなければインターネット広告なんてどんなに頑張っても埒が明かないし、プロダクト、サービス設計も含めて価値の作り方からテコ入れしないとならないと気づきました。
そうなると「優れたビジネスモデル」ってなんなのか。めちゃくちゃ考えましたね。
優れたビジネスモデルを知り、上流の戦略を議論することが必要だと気づいた黒澤さん。しかし、経営者を相手に戦略の話をする方法がわからず頭を悩ませます。
その時、一冊の本に出会いました。
「模倣の経営学」という本を読んだら、すごく参考になりました。この本で学んだのは、要は良いビジネスモデルを模倣することで戦略は考えられるということです。
自分はMBAホルダーでもないし、経営をやってきたわけでもない。そういう人が経営者と対等に議論するためには、何かモデルを示すことがすごく有効的です。
そこで競合他社や他業界で優れたビジネスモデルを分析して、会うたびに経営者に持っていくようにしたんです。
最初は聞く耳を持たなかった経営者たちも、繰り返し黒澤さんが持ってくるビジネスモデルに興味を示し、だんだんと話に耳を傾けるようになりました。
優れたビジネスモデルを分析して、どうすれば模倣できるかを試行錯誤する。この繰り返しが偶然にも、「マーケティングトレース」の原型を作り上げることとなりました。
黒澤さんはこの経験を通じて、「良い模倣」とは何かを学んだと言います。
良い模倣の3つの条件
「模倣の経営学」にも書いてある“良い模倣の3つの条件”は、いつも意識して戦略を考えています。
まず「遠いところから模倣する」。普通、模倣は近くからしようとしますよね。身近な存在を分析して、自分たちと比べてどうかを分析しようとします。
でもヒントはもっと遠いところにある。海外事例だったり、まったく違う業界だったり。だから最初から視野を狭めず、広くもつことが大事です。
次に「本質から模倣する」。つまり、表面的に真似しないということです。うまくいった施策だけを模倣するのではなく、その構造自体を模倣すべきです。
そして最後は「徹底的に真似る」。良い模倣をするためには、この3つを実践することが大事です。
でも「良い模倣」の条件を知っても、最初からうまくはいきません(笑)
様々な業界のビジネスモデルを分析して知ることで、優れた構造を自分の中にストックしていくことが大事なんです。
黒澤さんいわく、マーケティングトレースとはフレームワークを学ぶためではなく、「優れた構造」をたくさん知るためのもの。
自らを凡人だと言い切る黒澤さんは、それでも「模倣」に懸ける想いがあると言います。
私自身、世の中に大きな変化を起こしたいと思いつつ、それを自然とやってのける天才たちに比べると凡人だと思います。
でも優れたビジネスモデルや、天才と呼ばれる彼らの思考を模倣し、それを繰り返すことで、模倣から新しい動きを作っていけると信じています。
最後に黒澤さんのビジョンを伺うと、もっと多くの人々、特に「地方のマーケター」にもマーケティングトレースを知ってもらいたいと言葉が返ってきました。
地方の各地域でコミュニティが立ち上がり、黒澤さんの手を離れて自発的に学習会が立ち上がっていく構想を練っているそうです。
これからの黒澤さん、そしてマーケティングトレースのコミュニティにますます注目が集まります。
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