ランチェスター戦略という言葉を、一度は耳にしたことがありますよね?
日本でも多くの書籍が出版され、ネット上にも詳しい解説がたくさんあるので、知っている方は多いと思います。
しかし、ランチェスター戦略のことを、経営やマーケティングにおける戦略だと思っていないでしょうか?実はもともとのルーツを辿るとそうではありません。
今回は、誰がどのようにしてランチェスター戦略を考え出したのか?そして、ランチェスター戦略とはどのような理論なのか?といった質問に答えつつ、最後に具体的な事例を交えて「マーケティングにおけるランチェスター戦略」を考えてみたいと思います。
強者のランチェスター戦略をAppleから、弱者のランチェスター戦略をソフトバンクから学びましょう。
1. ランチェスター戦略とは?
まず経営・マーケティングにおけるランチェスター戦略について学ぶ前に、そもそもの起源を知るところから始めましょう。
ランチェスター戦略のベースとなる理論は、元々軍事力の研究から導き出された法則がベースになっています。
1-1. フレデリック・ランチェスター
ランチェスター戦略は、イギリス生まれの自動車・航空工学のエンジニア、フレデリック・ランチェスターが考案しました。
彼が生まれたのは1868年。ランチェスターの法則が生まれたのは1914年で、ちょうど第一次世界大戦が勃発した年でした。
ランチェスターの法則は、彼が提唱した戦争における主に兵力数と武器効率が戦争の勝敗とどう結びつくかを統計的な数理論から法則を導き出したものです。
1-2. ランチェスターの法則は軍事的法則
特に日本において、ランチェスター戦略は、経営・マーケティング戦略として広く多くの人が知るようになりました。しかし、もともとランチェスターの法則は軍事的法則です。
その理論は「兵数」と「武器効率」から「戦闘力」を導き出すというもので、敵の戦闘力を見て勝てる体制を算出するというものです。
敵より兵数で優位でない場合は武器効率で、広域戦など武器効率で優位でない場合は兵数を擁して、戦闘力を高めて敵を倒すというのがランチェスターの法則の大枠の考え方です。
端的に言うと、強者、弱者ともに敵よりも戦闘力を上げることで、優位に戦いを進めるという理論です。
1-3. 日本では経営学への応用で発展
このランチェスターの「戦闘の法則」を、戦後、田岡信夫氏がビジネス戦略思想として体系づけ、日本で独自に発展したものが「ランチェスター戦略」です。
つまり「戦闘力」は「営業力」に、「武器効率」を「商品力」、「兵力」を「販売力」に置き換え、相手となる企業にいかにして立ち向かうかという戦略です。
2. 強者と弱者のランチェスター戦略
ランチェスター戦略をとる場合にも、以下2つの異なるケースがあるので説明します。
2-1. 強者のランチェスター戦略
強者、つまり大企業がランチェスター戦略をとる場合、前提として市場シェアが1位であることが強者の条件です。
市場シェアが1位である強者が取るべきマーケティング戦略は、さまざまな分野に手を伸ばすことで、2位の企業がのし上がろうとする行動を防ぐことです。これらを「ミート戦略」ともいいます。
強者は、「質より量」で攻めていき、弱者がとる差別化要素をなくすことに重点を置きます。 つまり弱者がとった戦略をマネして、弱者が狙おうとしている差別化要素をなくし、単純に人員数や資金での勝負に持ち込めるといったものです。
新商品や新しいサービスがでたら、それにミートさせる(当てる、真似する)形で類似商品やサービスを作ります。また営業方法なども同様で、良い方法があれば真似してきます。
強者であれば、物量で弱者に負けることがなく、結果として同じ質のものを作れば、量で勝てることになります。
この作戦で重要なことは、弱者の差別化に対して、すぐにミートすること。つまり、弱者の出鼻をくじくということです。
2-2. 弱者のランチェスター戦略
ランチェスター戦略においては、市場シェア1位以外の企業はすべて「弱者」と考えます。
1位以外である弱者は、強者と同じ戦略をしてはいけません。1位の企業と差別化する戦略を図る必要があります。
弱者が取るべき戦略には以下の3つのポイントがあります。
- 局地戦
- 一点集中
- 一騎打ち
それぞれ見ていきましょう。
局地戦
ニッチ市場やスキマ市場に競争の場を特化し、トップ企業と戦う。織田信長の桶狭間の戦いのように、ゲリラ戦法で、小さな市場のシェアから確実に奪っていくことです。
現代ではSNSなど、マス広告ではない方法で顧客とコミュニケーションをとる方法が多く存在するため、ターゲットを絞ることができれば、有効な戦略と言えます。
一点集中
攻撃目標をひとつに絞って、強者の弱点を重点的に攻める。マーケットを細分化してでも、その市場に全勢力を傾けNo. 1を狙う戦略です。
攻撃目標を「エリア」「顧客」「商品」に小さく絞って一点集中し、それ以外の戦力も全て費やす勇気が必要です。
一騎打ち
文字通り1対1で戦うことで、特定の場所に資源を集中し、トップ企業と戦う。
弱者も強者も一騎打ちで有ればそれほど力に差は無いと思いますので、弱者にも勝つチャンスが増えて来ると言う物になります。
出典:「[図解]弱者が強者に勝つ方法 ランチェスター戦略」 (PHP研究所) 著・福永雅文
3. マーケティングにおけるランチェスター戦略事例
ジョブズ時代のAppleが行っていたのが、まさに強者のランチェスター戦略です。
Appleは、スマートフォンやタブレット、ポータブルオーディオプレイヤーにしても、他社に先に製品を出させておいて、後出しで自社製品を発表し、その素晴らしさをより強調し、結果的にはその市場のトップに立ち続けています。
フラッシュメモリーを使った軽量小型のポータブルオーディオプレイヤーを先に発表したのはSONYのウォークマンでしたが、その2年後、洗練されたデザインやiTunesなど使いやすいシステムで消費者のハートを掴んだのは、AppleのiPodでした。
一方、弱者のランチェスター戦略ではソフトバンクが事例として挙げられます。
ソフトバンクが携帯電話キャリア事業に参入したとき、市場にはNTTドコモという圧倒的な強者となる競合の存在がありました。
ソフトバンクはこのとき、弱者の戦略としての基本を踏まえ、マーケティングとしていきなり無謀な全面戦争は仕掛けずに差別化戦略をとり、局地戦に徹します。
モバイル事業ではまず他社にない「低価格」を武器に、参入後に通話料やメールを「0円」で訴求する広告を、新聞などで展開しました。
それまでモバイル市場になかった「低価格」の局地戦で市場に風穴を開けたあとは、学生向け市場やiPhoneの導入と他社との差別化をますます図っていきます。
そして、2014年にはNTTドコモを抜いて国内携帯電話市場の首位に躍り出ました。
今回のまとめ
ランチェスター戦略は、強者と弱者の戦略の2つの側面を持っています。
まずは自社がどちらなのかを確かめて、ライバル企業との関係を元にどのような戦略を練るのかを考えてみましょう。
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